研究課題/領域番号 |
16K06985
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
神経生理学・神経科学一般
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 弘樹 東北大学, 生命科学研究科, 研究支援者 (00425612)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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研究課題ステータス |
中途終了 (2016年度)
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配分額 *注記 |
4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2018年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2017年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2016年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 神経系 / 脳 / 性差 / 性行動 / 細胞接着因子 / ショウジョウバエ / 神経科学 / 脳・神経 / 発生・分化 / 行動学 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエの雄の性行動を制御する脳の神経回路は約60種類のfruitless (fru)発現ニューロンで構成され、その中の約20種類では神経突起の形、細胞数に性的二型が見られる。Fru蛋白質は雄のfru発現ニューロンのみに発現しニューロンを雄化する。本研究の目的は転写因子Fruの標的となる遺伝子を網羅的に同定し、その遺伝子が脳の性差形成、及び雄の性行動を制御する仕組みを明らかにすることにある。そこで現在、私は以下のforward genetic、reverse genetic解析法を用いてFru標的遺伝子の同定を行っている。 1. [forward genetic解析] 脳の性差を詳細に調べるためには、脳の左右両半球のニューロンを別波長の蛍光を用いて高効率で可視化する必要がある。そこで、脳の特定ニューロンを蛍光で可視化するintersection、左右両半球のニューロンを別波長の蛍光で可視化するdBrainbow、さらに可視化されたニューロンの特定遺伝子の発現を抑制するノックダウンの3つを同時に実行出来る系統(intersection-dBrainbow-ノックダウンコンビネーション系統)を新たに作成した。この系統を用い複数のFru標的候補遺伝子について調べた結果、新たに細胞接着因子の一つFaint sausage (Fas)が脳の性差形成に関与することを明らかにした。 2. [reverse genetic解析] ショウジョウバエ脳のニューロン約10万個のうちfru発現ニューロンの割合は約2%である。成虫の脳の性差形成に関わる遺伝子を生化学的に同定するには、この約2%のニューロンで成虫の脳が作られる蛹期に性特異的に発現量が変化している遺伝子を同定する必要がある。この目的のためリボゾーム蛋白質RpL10Ab、RNAポリメラーゼII 215kdサブユニットを用いて特定ニューロンの遺伝子発現量をモニター可能なシステムを作成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. [forward genetic解析] 最近、私は哺乳類から昆虫においてニューロンの軸索の投射を制御するrobo1がFru標的遺伝子の一つであり、mALと呼ばれるニューロンの雄特異的な神経突起の形成の制御を介して求愛の際の雄の左右の翅の交互の伸展に関与すること、さらにrobo1プロモーターのFru結合部位には16塩基のパリンドローム(Pal1)配列があることを明らかにした(Ito et al., Curr Biol, 26, 1532-1542 (2016))。そこで、ショウジョウバエゲノム上のPal1に類似した配列を探したところ約200の遺伝子座にPal1が見られた。その遺伝子のうちFru制御下でmRNA発現量が変化する遺伝子を同定し、前述のintersection-dBrainbow-ノックダウンコンビネーション系統を用いて遺伝子ノックダウンが脳の性差形成に影響するかを調べた結果、哺乳類のNeural cell adhesion molecules (NCAM) と類似した構造を持つ細胞接着因子、Fasが脳の複数ニューロンの神経突起の性特異的な投射に関与することを明らかにした。 2. [reverse genetic解析]ショウジョウバエ脳の全ニューロンのうち約2%を占めるfru発現ニューロンについてその性差形成を制御する遺伝子を生化学的に同定することを試みている。この目的のため、特定ニューロンのリボゾーム蛋白質RpL10Abに結合したmRNAを単離しRNA-Seqを行う。現在、この目的に必要なUAS-EGFP-TEV-3xFLAG-RpL10A-HA遺伝子組換え体を作成している。さらに特定ニューロンで活性化している遺伝子を同定するため、特定ニューロンのRNAポリメラーゼII 215kdサブユニット (RpII215)が結合したプロモーター配列を単離しChip-Seqを行う。現在、この目的に必要なUAS-EGFP-TEV-Msp300遺伝子組換え体、UAS-3xFLAG-RpII215-HA遺伝子組換え体を作成している。
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今後の研究の推進方策 |
1. [forward genetic解析] ショウジョウバエゲノム上のFru結合モチーフPal1配列を持つ約200の遺伝子のうち未解析の遺伝子に関して、intersection-dBrainbow-ノックダウンコンビネーション系統を用いてその遺伝子のノックダウンが脳の性差形成に影響するかを調べる。さらに最近、私はNCAMと類似構造を持つFasについて、雄の性的二型を示すニューロンのfasをノックダウンした場合、神経突起の投射が雌の形に変化し、雌の性的二型ニューロンのfasをノックダウンした場合、雄の形に変化することを見出した。Fasはその構造から細胞膜上でRobo1等の軸索投射制御因子と相互作用し、神経突起が正しい標的細胞に投射し性特異的な構造を形成するのに重要な役割を果たしていると予想される。そこで、機能的ドメインの一部を欠いたFasを発現する変異体を作成し、Fasが性的二型形成を制御する機構を明らかにする。 2. [reverse genetic解析] UAS-EGFP-TEV-3xFLAG-RpL10A-HA遺伝子組換え体の脳のfru発現ニューロンから抗GFP抗体、抗FLAG抗体の2種類の抗体固定化磁気ビーズを用いてリボゾーム蛋白質RpL10Abを単離し、RpL10Abに結合したmRNAをRNA-Seq法で検出する。一方、UAS-EGFP-TEV-Msp300遺伝子、UAS-3xFLAG-RpII215-HA遺伝子両方を持つ組換え体の脳のfru発現ニューロンから、核膜表面のEGFP-TEV-Msp300蛋白質に抗GFP抗体固定化磁気ビーズを結合させ核分画を単離する。次に、抗FLAG抗体固定化磁気ビーズを用いて核内の3xFLAG-RpII215-HAを単離し、RpII215蛋白質に結合したプローモーターDNAをChip-Seq法で検出する。以上の方法により脳のfru発現ニューロンで性差が形成される時期に発現量が大きく変化する遺伝子を検出し、性的二型の形成に関与する遺伝子を同定する。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の残りのベクターDNAの作成も終了したので、平成29年度に次年度使用額をベクターDNA注入依頼に使用する予定である。
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