研究概要 |
Pot1のN末端側182アミノ酸残基がテロメア1本鎖DNA領域との特異的な結合に必要なドメイン(DBD)であることを既に明らかにしている。大腸菌内での大量発現系を用いたPot1DBDの調製方法についても既に確立しており、この系を用いてPot1DBDを調製した。本研究では、Pot1DBDとd(GGTTAC)の複合体の3次元構造を詳細に解析した。複合体中のPot1DBDの3次元構造は3本のαヘリックスと8本のβストランドを有するOB(oligonucleotide/oligosaccharide binding) foldのファミリーに属することが明らかとなった。複合体中のd(GGTTAC)は、ランダムな構造ではなく屈曲した独特の構造を有していることが明らかとなった。また、Pot1DBD側のK124,D125がd(GGTTAC)側のG1と、Pot1DBD側のT111,S123がd(GGTTAC)側のG2と、Pot1DBD側のT62,K90がd(GGTTAC)側のT3と、Pot1DBD側のS58,D64がd(GGTTAC)側のT4と、Pot1DBD側のR56,L59がd(GGTTAC)側のA5と、Pot1DBD側のY115,Q120がd(GGTTAC)側のC6と水素結合で特異的に結合していることを明らかとなった。 次に、d(GGTTAC)とは長さや塩基配列の異なる一連の変異型テロメア1本鎖DNAのオリゴヌクレオチドをDNA合成機で合成し、逆相HPLCで精製した。これらと野生型Pot1DBDとの結合能をゲルシフト法で解析した。6塩基いずれについても他の塩基に置換したり、6塩基より短くしたりすると、Pot1DBDとの結合能が低下した。これより、d(GGTTAC)がPot1DBDとの特異的な結合に必要である、テロメア1本鎖DNA側の最適な塩基配列であることを明らかにした。 さらに、複合体の3次元構造からd(GGTTAC)との複合体形成への関与が考えられるPot1DBD側のアミノ酸残基に点変異を導入するため、点変異導入用発現プラスミドを構築し、大腸菌内での大量発現系を用いて変異型PotlDBDを調製した。これらとd(GGTTAC)との結合能をゲルシフト法で解析した。S58A,K90AおよびD125Aは野生型と比較してd(GGTTAC)との結合能がほとんど変化しなかったが、D64A,Q120LおよびK124Aは野生型と比較してd(GGTTAC)との結合能が有意に低下した。複合体の3次元構造からd(GGTTAC)との複合体形成への関与が示唆されているアミノ酸残基の中でも、複合体形成への関与の度合が大きいアミノ酸残基と小さいアミノ酸残基があることが推察された。また、複数のアミノ酸残基が1つの塩基を認識している場合には、片方のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されても他方のアミノ酸残基がd(GGTTAC)との結合能を保持し得るように補償する場合があることが推察された。
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