研究概要 |
ヒトHOX遺伝子は,転写因子をコードしており,その下位にある多くの標的遺伝子の発現を時間的・空間的に調節しながら形態形成を進めていく.我々は,HOX遺伝子が形態形成過程だけでなく,成体においても臓器・組織に特徴的な発現パターンを示すこと,ならびに様々な癌組織においてHOX遺伝子の発現異常が頻繁にみられることを示してきた.さらにHOX遺伝子の発現異常が癌細胞の転移・浸潤能を変化させることも報告してきた. 本研究課題では,癌においてHOX遺伝子の発現異常が起こるメカニズムのひとつとしてマイクロRNA(miRNA)に焦点を当て検討した.miRNAは,標的RNAを配列特異的に認識し,RNAの分解や翻訳阻害を引き起こす生体内でつくられる低分子RNAの総称である.最近,HOXクラスター内でmiR10a,miR10b,miR-196a-1,miR-196a-2およびmiR-196bの5種類のmiRNAがつくられることが報告された.本課題では,これらのmiRNAのうちmiR-196が標的とするHOX遺伝子の同定を試みた.二本鎖RNA miR-196aあるいは二本鎖RNA miR-196a-1をヒト癌細胞(HeLa,293,LoVoおよびMCF-7)に導入し,39個のHOX遺伝子の発現変化について定量的リアルタイムRT-PCR法で調べた.その結果,これらのmiRNAの導入によってHOXA7およびHOXD8遺伝子の発現が抑制されることがわかった.現在,これらのmiRNAが標的とするHOXA7およびHOXD8 mRNA内のRNA配列の同定とprecursorタイプのmiRNAを細胞内で発現させ細胞の悪性形質の変化について調べている.
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