研究概要 |
新規のがん抑制遺伝子であるRB1CC1の細胞生物学的機構を明らかにすることによって、新しい細胞増殖抑制の経路、また、本経路の破綻より生じる発がんの機構を理解することを目的として研究を行ってきた。これまでにRB1CC1結合分子として、TSC1,GADD34,hSNF5,Smad7等を同定していたが、本年度は特にTSC1,hSNF5との関わりについて、いくつかの知見を得ることができた。 RB1CC1はTSC1と結合することによって、TSC1のubiquitin化を促進し、この分解を促していることが明らかになった。TSC1の分解はTSC1/2 complexのmTORへの抑制作用を解除し、mTOR-S6K経路を活性化する。このことで、RB1CC1は蛋白合成レベルの維持、そして細胞サイズの維持を行う。一方でRB1CC1の高発現はRB1発現の維持をも同時にもたらし、細胞増殖を伴わない細胞サイズの維持、増大を促すことが明らかとなった。RB1CC1のこれら作用は、本来RB1CC1発現レベルの高い神経、筋の細胞、組織において特に重要であり、神経、筋では高いRB1CC1発現によって、RB1経路、mTOR経路、両者が強く維持され、これら細胞が増殖をきたさず大きな細胞であり続けていることの一役を担っている。 RB1CC1は核内クロマチンリモデリングファクターの一つであるhSNF5/INI1とも複合体を形成するが、RB1CC1-hSNF5 complexはp53とも更に複合体を形成し、これを安定化させることによって、p21発現亢進をきたし、細胞増殖を抑制することが解ってきた。つまり、p53→p21→RB1の経路において、p53によるp21の転写過程にRB1CC1-hSNF5 complexが貢献し、これを安定化、持続させる。このことにより、RB1経路は増強され、細胞増殖は抑制される。 今後は、CAG-loxP-neo-loxP-FlagRB1CC1を導入したtransgenic mouse、及び、そのMEF(mouse embryonic fibroblasts)を中心として、生体内でのRB1CC1過剰発現のもたらす病態を中心に解析していきたい。
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