研究概要 |
本研究は、低分子量Gタンパク質の相互作用が関わるシグナル伝達と、細胞骨格系タンパク質が生み出す細胞運動との融合モデルを作ることが目的である。つまり、タンパク質相互作用による「生化学反応系」を超えて、空間的な現象、すなわち細胞形状変化や細胞走性といった「物理現象系」をも含めた生命システムの統合的理解を目指すものである。具体的には、細胞運動の制御ダイナミクスを解明するためのシステム生物学を、シミュレーションと一分子時空間計測技術を併用して実施する。研究代表者の石井と分担者の作村は、神経細胞の軸索誘導機構について、Gタンパク質相互作用の特性から説明するモデル研究を行ってきた。現象の本質を見るために、細胞骨格形成との関係が深いと考えられるRhoファミリー低分子量Gタンパク質の相互作用を主要反応系として簡略化し、Gタンパク質の相互作用によって、非線形な応答特性を持ち得ることが示された。成長円錐モデルにおいては、局所非線形応答を仮定し、その非線形応答によって軸索が細胞外誘導因子の勾配を検知し、伸長していく能力があることを示した(Sakumura et al.,Biophys.J. 89, 812-822,2005)。しかし、このモデルでは、上流の受容体及びPI3キナーゼシグナル、下流のアクチン細胞骨格形成に至る部分は、簡略化を行った。そのため、分担者の中村は、軸索成長円錐におけるFRETイメージングを行い、Gタンパク質の上流(PI3K)と下流(アクチン)の時空間計測を行い、成長円錐の形態とGタンパク質の活性分布との関係を調査した(Nakamura et al.,Mol. Brain Res. 139,277-287,2005)。今後は、成長円錐内Ca^<2+>濃度の局所性による生化学反応特性も考慮する必要があるが、石井と作村はシナプス可塑性の分子メカニズムにおける局所Ca^<2+>シグナルに関する研究を行っており(Honda et al.,Mol.Sys.Biol. doi:10.1038/msb4100035)、本研究にも応用できると考えている。
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