研究概要 |
本研究では、ヒトゲノムにおいて重複と欠失が最も多く認められるY染色体をモデルとして、ゲノムの重複・欠失領域の同定、その周辺領域の構造解析、異なる生物間での比較ゲノム解析を行い、ゲノムの重複・欠失に関わる構造上の特性を見出すこと、個体間・異なる生物間における多様性と表現型との関連、Y染色体上で見られる重複領域の進化を明らかにすることを目的として解析を行った。 ヒトY染色体の詳細なゲノム構造解析を目指し、Y染色体オリゴチップを用いたアレイCGH解析を行った。ゲノムのコピー数を同定する実験系を確立することに手間取っており、現在、解析条件を検討しているところである。 アレイCGH解析と並行してチンパンジーY染色体の配列決定を行い、ヒト-チンパンジーにおける比較ゲノム解析を行った。これまでに、チンパンジーY染色体の約12.7Mbの領域の高精度塩基配列決定を終了し、その領域に位置するゲノム重複領域、種特異的な反復配列の種類とその分布について解析を行った。その結果、配列決定を行った12.7Mbの領域には、パリンドローム構造を示すゲノム重複領域が4箇所存在し(P6+,P7,P8,CSP1)、そのうちの2箇所、P6+とCSP1についてはヒトとチンパンジーでゲノム構造が大きく異なっていることが明らかになった。P6+領城では、ヒトとチンパンジーで同様な構造を示したが、パリンドローム領域の大きさが異なっていた。また、CSP1は、チンパンジー特異的なパリンドローム構造で、この領域の塩基配列はヒトY染色体の配列データと85-98%の断続的な相同性を示した。ヒトとチンパンジーで認められたパリンドローム構造の相違は、約500万年もの間、Y染色体のゲノム構造がパリンドローム構造を形成するという共通な性質を保持しながら、種特異的な様式でパリンドロームの構造変化を繰り返していることを示唆するものである。
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