研究課題
特定領域研究
BDNF(脳由来神経栄養因子)は培養神経細胞などで神経活動依存的に発現誘導されることが知られている分子である。その作用点として、記憶の維持相に必要であるという個体レベルでの報告があるもの、細胞レベルでの働き方については諸説ある。我々はBDNFに関する解析の過程でBDNFの発現パターンに興味深い特性があることを見出した。すなわち、たとえば海馬CA1錐体細胞などの比較的均一な細胞層で、一部のみの細胞体にBDNF免疫染色陽性シグナルが強く見られたのだ。連合学習獲得の有無でこれら細胞体BDNF強陽性細胞の数を解析したところ、恐怖条件付け学習獲得群では条件付けしていない群に比べ4時間後の強陽性細胞数が有意に増加した。この増加は条件付け時にNMDA受容体阻害薬であるMK801投与を行い学習獲得が阻害された群では見られなかった。一方我々は既に培養細胞においてBDNF強制発現を疎に行い、発現細胞選択的に周囲のGAD65が増加することを報告している。つまりBDNF発現細胞に投射する抑制性神経終末のポテンシャルが選択的に強化されたと考えられる。そこで、生体内での上記の内在性のBDNF強陽性細胞と周囲のGAD65量が関係しているか調べるため、染色強度を定量化し相関をとったところ、有意な正の相関を見出した。これらの実験結果を以前のBDNF研究と考え合わせると、学習獲得の際、一部の神経細胞のみで神経活動が強く起こりBDNFが高発現する可能性が示唆される。その一部の細胞が神経細胞ネットワークの可塑的変化を中心的に担う可能性があり、抑制性入力のポテンシャルが高まることは"記憶の安定性"を保証するメカニズムとなりうる。
すべて 2006 2005
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NeuroReport (In press)
Cereb Cortex 15
ページ: 291-298
Science 309
ページ: 2232-2234