研究概要 |
音源定位は両耳に到達する音の時間差を手がかりとして行われ,トリでは層状核(NL)神経細胞が両耳からのシナプス入力の同時検出器として働くことにより実現される.本研究では,NL細胞の同時検出特性を特徴周波数(CF)毎に調べ,以下の2点を明らかにした. 1.NLでは過分極で活性化される陽イオン電流(h電流)が記録される.我々は,このh電流がHCN1及びHCN2によることを明らかにした.特に,high CF細胞ではHCN2が優位であった.HCN2は細胞内cAMP濃度の上昇により電位依存性が脱分極方向へ変化する.従って,h電流に対する8-Br-cAMP及びノルアドレナリンの効果を検討したところ,ともにhigh CF細胞において電位依存性の変化がみられた.この結果,ノルアドレナリン存在下では,high CF細胞において静止膜電位が脱分極し,EPSPの時間経過が短縮することにより,同時検出の精度が向上した.このことから,ノルアドレナリンはcAMPを介してCF依存的にh電流を修飾することにより,音源定位の精度を向上させると考えられた. 2.NLのhigh-middle CF細胞では,活動電位が小さく,かつ細胞体膜からNa電流が記録されないことから,活動電位は細胞体から電気的に離れた軸索上で発生していると考えられた.さらに,ニワトリのNaチャネルに対する抗体を作成しNaチャネルの分布を調べたところ,策状構造として認められた.また,その長さはCFに応じて異なり,low CF領域に比べてhigh-middle CF領域で短かった.このことから,NL細胞における活動電位の発生部位がCF毎に特殊化していると考えられた.今後さらに,この策状構造と細胞体および軸索との関係を明らかにするとともに,この特殊なNaチャネル分布の同時検出における役割をコンピューターシミュレーションにより明らかにする予定である.
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