研究概要 |
情動によってヒトの認知過程および行動は大きな影響を受ける.情動が記憶に大きく影響し,その過程に扁桃体が関与していることは動物およびヒトにおける損傷例研究,機能画像研究で示されている.情動による記憶の強化を検討するために,黒質,大脳基底核に加えて,扁桃体に強い病理変化を有し,海馬は比較的保たれるパーキンソン病(PD)を対象して情動性記憶の障害とその神経基盤の検討,情動的脈絡が記憶に及ぼす過程の脳内基盤を探るため賦活研究を行った. 1.PDにおいて情動性の異なった刺激を負荷して,情動の記憶に対する影響が変化しているかどうかを検討した.情動による記憶の強化を検討するために,情動性を付加した記憶課題を作成し,その信頼性および妥当性を確認した.次ぎに繰り返し測定ができるように1対の相同的な情動性記憶課題を開発した.その課題を用いてPD患者24例を対象に,情動による記憶の強化を検討した.中立的物語を用いた記憶再生と情動的物語を用いた記憶再生は2週間以上の間隔をあけ,順序は交代させてカウンターバランスをとった.その結果,健常対照10例では情動による記憶保持の強化が認められるが,PDではそれが消失していた.物語や映像に関する情動価の評価は健常者に比較して若干低下しているものの,このような記憶に対する影響を説明するほどではなかった.扁桃体の病理変化や基底核-前頭葉回路の変化が関与している可能性が考えられる. 2.健常者を対象に,陰性情動価の単語あるいは中性情動価の単語の記銘課題実行中における脳活動をPETで計測した.記銘課題中には2条件が設定され,被験者は一つの条件では単語の深い処理,もうひとつの条件では単語の浅い処理が求められた.単語の処理水準に関わらず,陰性情動価の単語の記銘は中性情動価の単語の記銘に比べて,扁桃体を中心とする神経ネットワークを活動させるという結果を得た.
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