研究概要 |
記憶、学習、情動、視覚皮質での可塑性、体内時計など、脳の持つ多くの機能では、特定の神経回路における遺伝子の発現調節が重要な役割を担っている。この様な分子レベルの変化が生じている神経回路を、リアルタイムに検出することができれば、脳機能のメカニズムを解明する上で大きな前進となりうる。本研究では、記憶・学習や概日リズムと密接に関係した遺伝子の発現変化を、遺伝子工学を利用して神経回路レベルでリアルタイムに可視化することを目指した。 まず、変化をモニタリングするための優れたレポーターを作成した。短時間半減期型のGFP(green fluorescent protein)を基に、細胞膜移行シグナルや、種々の蛋白分解促進配列、mRNA分解促進配列と組み合わせたレポーターを作成した。さらに、蛍光蛋白自身も、より蛍光強度の強いものに代え、神経回路レベルでモニターするのに適したレポーターを作成した。 次に、c-fos,Arc,Zif268遺伝子のプロモーターにこのレポーターをつないだコンストラクトを作成し、さらにそのコンストラクトをもつトランスジェニックマウスを作成した。c-fos,Arc,Zif268遺伝子のmRNAは、記憶・学習や概日リズムと密接に関係して神経細胞に誘導されることが知られている。これらのトランスジェニックマウスの脳を解析した結果、c-fosプロモーターを使ったトランスジェニックマウスでは、レポーターの反応性は見られるものの蛍光シグナルの強度は弱いこと、Arcプロモーターを使ったマウスでは大脳皮質、海馬などで十分な蛍光強度が得られ、神経回路レベルでのリアルタイムの観察に有用であることを明らかにした。
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