研究課題
特定領域研究
感覚入力(視覚・聴覚・体性感覚等)は、視床で中継され大脳皮質へ送られるが、"視床は単たる中継なのか、それとも何らかの情報処理を行っているのか"、という疑問に対する明確な解答は実験的には得られていない。一つの仮説として、"視床は感覚情報を大脳皮質が受け取りやすい形に変換する"といわれている。本研究計画では、その神経ネットワークレベルの仮説を、細胞・シナプスレベルで実証することを目的とし、解析システムの開発と病態の解析の両面から研究を進めた。ダイナミッククランプ法とは、神経回路の一部を人工的神経回路に置き換える手法であり、神経回路の機能解析ツールとして最近注目されている。視床神経細胞群の同期性神経発火の発生機構を明らかにするため、4細胞(3つの視床リレー細胞と1つの網様核細胞)からの同時記録にダイナミッククランプ法による人工シナプス電流を組み合わせ、視床ハイブリッド神経回路を構築した。この実験系を用いることにより、視床リレー細胞間の神経発火の同期性が、シナプス電流やシナプス配線の異常によってどのように修飾されるのか、検証することが可能になった。遺伝子変異マウスtotteringは、P/Q型電位依存性カルシウムチャネルに点変異を持ち、欠神てんかん脳波を呈することが知られている。欠神てんかん発作の責任病巣は、視床-大脳皮質神経回路であると考えられている。我々はこれまで、視床から大脳皮質へのフィードフォワード抑制電流が激しく減弱していることを報告してきた。今年度において、この抑制電流の減弱が大脳皮質神経細胞において長期にわたる脱分極を引き起こすことを明らかにした。加えて、この抑制電流の減弱は体性感覚野では観察されるが、聴覚野では観察されないことも明らかとなった。
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