研究課題
特定領域研究
齧歯類の大脳皮質体性感覚野の第4層には、「バレル」とよばれる特徴的な組織学的構造が存在し、活動依存的な神経回路発達のモデルとして注目されてきた。しかし、その分子レベルの機構は方法論の不備のため、ほとんど未解明であった。私達はこれまでの研究で、近年発展してきたマウス発生工学、特に領域特異的遺伝子ノックアウト法が、この目的のために非常に有効であることを示してきた。本研究では、新しい領域特異的遺伝子ノックアウト法の開発とともに、それを用いてバレル形成分子機構を解明することを目的としてきた。特に着目しているのは、様々な神経可塑性においてカルシウムとcAMPの経路をつなぐ重要な働きが知られている、アデニル酸シクラーゼ(AC1)の役割でる。AC1の様々な変異マウスを作製し、解析した。AC1の全身性ノックアウトマウスは正常に生存するが、バレルを全く形成しない。一方、大脳皮質興奮性神経細胞特異的ノックアウトでは、バレルが正常に形成される。AC1の働きを相補する可能性が考えられるAC8とのダブルノックアウトにしても、この表現型はかわらなかった。さらに、大脳皮質の興奮性神経細胞の全てと視床の一部でノックアウトを行うと、バレル形成に部分的な異常がみられた。したがって、バレル形成において、AC1はポストシナプス側にあたる大脳皮質細胞ではなく、プレシナプス側にあたる視床-皮質軸索終末側で重要な働きをする。しかし、より詳細な解析をすることにより、ポストシナプス側のAC1もバレル皮質の発達に重要な働きをすることが、徐々に明らかになってきている。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (3件)
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