研究概要 |
グリセロリン脂質であるホスファチジルイノシトールとそのリン酸化代謝産物であるホスホイノシタイド(PIs)は、形質膜や細胞内オルガネラの脂質二重膜構成因子として膜の構造を規定するのみならず、脂質代謝・分解酵素により脂質性シグナル分子へと変換される。PIsのイノシトール環は3,4,5位水酸基に可逆的なリン酸化を受け、それらのリン酸化部位の組み合わせによって7種類の分子種が細胞内に存在する。個々のPIsは異なる特異性で種々のタンパク質に結合し、それらの酵素活性や細胞内局在を調節することにより、多様な細胞応答を制御している。我々はこれまでに、PIs代謝の異常が様々な病態と関連することを見出した。 PIsの中でも特にホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸の生理機能に関しては全く解明されていないので、ホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸の分解酵素の欠損マウスを作製し、その表現型を解析した。その結果、ホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸の代謝異常が著しい不随意運動の発現につながることが明らかになった。組織学的な解析の結果、線条体での神経細胞死の亢進とグリオーシスが見出された。神経細胞死の亢進は、培養細胞においても確認された。線条体におけるホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸分解酵素活性は、遺伝子欠損によっておよそ半分に低下していた。このことは、他の分解酵素の存在を示している。また、ホスホイノシチドの新たな実験手技によって、脳の特定部位におけるホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸の定量に成功し、作製した遺伝子改変マウスでは、この脂質が蓄積していることを明らかにした。
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