研究概要 |
小脳のシナプス可塑性発現に必要で運動学習に関与すると考えられるイオン透過型グルタミン酸受容体デルタ2サブユニットおよび前庭動眼反射経路内の前庭核神経細胞および小脳の顆粒細胞で発現し反射のタイミング制御にかかわると推測されるNMDA型グルタミン酸受容体イプシロン1,3両サブユニットを欠損したミュータントマウスを用いて、前庭動眼反射・視運動性眼球運動の解析を行い、各分子の欠損がいかなる個体の行動変化を引き起こすかを検討した。そめ結果、デルタ2サブユニット欠損マウスおよびイプシロン1,3両サブユニット欠損マウスで、視運動性眼球運動の適応性変化が起こらないこと等が明らかになった。視運動性眼球運動の適応性変化は、視野全体を持続的に動かすことにより眼球の視野追従効率がしだいによくなる現象で、運動学習の一例と考えられている。今回の結果は、デルタ2およびイプシロン1,3サブユニットが運動学習に関与することを示している。イプシロン1,3両サブユニットは小脳以外でも発現が認められるので、次に小脳のNMDA受容体が運動学習に関与しているかを検討した。実際には、NMDA受容体阻害剤のD-APVを眼球運動制御にかかわる小脳部位である片葉に注入して、視運動性眼球運動の適応への影響を調べた。そうしたところ、D-APVは視運動性眼球運動の適応を阻害したが、光学異性体のL-APVは適応を妨げなかった。以上から、小脳のNMDA受容体が運動学習に関与することが明らかになった。ところで、デルタ2サブユニット欠損マウスでは視運動性眼球運動のタイミングがかなり遅れることも今回の解析で明らかになった。その神経機構を明らかにする目的で、視運動性眼球運動中に小脳片葉のプルキンエ細胞活動を記録する実験を開始した。
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