研究概要 |
本研究の長期的目的は霊長類(サル)のてんかん、アルツハイマー病、PTSD、ストレスなどに対して脆弱で、記憶・情動・意欲に関与すると考えられている大脳辺縁皮質に強く発現する神経調節物質を検索し、それらの調節物質を用いる神経のネットワークを明らかにすることである。我々は、記憶に関与し、細胞死、アルツハイマー病に関与するzincを調節物質としている興奮性のネットワークが辺縁皮質を含む辺縁系で豊富であることを見いだし報告した(Ichinohe and Rockland, 2005a,b)。これらの報告は特に、恐怖の情動に関与する扁桃体と意味記憶および視覚認知に関与する周嗅皮質と下側頭葉を中心として解析を行った。扁桃体においては特に、多種の感覚を司る領域にzincが多いことが見いだされ、また、ヒトのzincをcoreに持つ老人班の分布とよく相関する結果が得られた。下側頭葉におてはzincの分布のみならず、そのzincを持つ前シナプス要素のオリジンとなる細胞の検索も行い。オリジンとなる細胞の多くは海馬、扁桃体、周嗅皮質を含む辺縁系に存在することが明らかになり、辺縁系からのtop-downシグナルの伝達にzincを含む投射系が働いていることが示唆された。また、このzincの機能理解のひとつの手段としてzincを含む投射システムの生後発達を検討した(Miro-Bernie et al., 2006)。辺縁系の一部である後部帯状皮質で、zincの発現は生後2、3週間でピークを迎え、adultではzincを持たない視床皮質投射ニューロンもこの時期ではzincを含むことを電研等を用いて示した。生後2,3週は自分での探索行動が始まる時に当たっており、そのような時期の経験依存的な脳の成熟に関与することが考えられる。これは、adult霊長類のzincの機能を考える上で興味深い所見と思われれる。
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