研究概要 |
アルツハイマー病(AD)発症の第一段階は可溶性アミロイドβ蛋白(Aβ)の毒性型(オリゴマーと推定される)への変換と神経細胞への沈着であり,この過程の分子機構の解明は,ADの予防・治療法の開発にとってきわめて重要である.申請者はリポソームおよび細胞を用いた研究から,膜の脂質ラフトにおいてコレステロール依存的に形成されるGM1ガングリオシドのクラスターを認識してAβが膜に結合し,凝集核となるGM1結合型Aβ(GM1-Aβ)が形成されるとの仮説を立てている.本研究では,1)GM1-Aβを核として形成されるアミロイド線維の構造解析および2)線維形成阻害剤の探索を行った.フーリエ変換赤外分光法によって,GM1によって形成された線維は、水中で形成された線維に比べβ-シートの水素結合が強いことが明らかとなった.また,重水素交換NMRの実験から,GM1によって形成された線維では,V18,F19,A21,G25-D27,V36-G38のアミドプロトンの交換が水中で形成された線維に比べ50倍以上遅くなっていることが分かった.次に水中での線維形成阻害が報告されている代表的な8種類の化合物について,Aβ(1-40)の水中およびGM1を含むラフトリポソーム中での線維形成阻害効果をチオフラビンT法で調べた.(NDGA),リファンピシン,ケルセチンに強い凝集抑制効果が見られた.これらのうち,NDGAとリファンピシンはラフトリポソームに結合することによって,Aβの膜結合を競合的に抑制することが線維形成阻害の一因であることが明らかとなった.事実,NDGAはNGF分化PC12細胞へのAβ(1-42)の蓄積と細胞毒性を阻害した.また,各化合物の凝集阻害効果の違いから,水中およびラフト中での線維形成は異なる過程であることが示唆され,上記の結果を支持した.
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