研究概要 |
Tsixの転写によって産生されるスプライシングを受けたRNAが,Tsixを介したXistの発現制御機構にどのようなインパクトを持つかについては,前年度の解析から,胚発生においてはTsixのスプライシング欠損アリル(Tsix^<ΔSA>)を持つX染色体上でもXistのエピジェネティック制御は適切に確立されることから,Tsixスプライシング産物はTsixによるXist遺伝子のアンチセンス制御を担うものではないという結論に達していた.そこで,平成18年度開始当初は,その投稿準備を進めるとともに,新たにTsixはRNAポリメラーゼII(polII)によって転写されることが必要なのか検討する計画であった.ところが,論文投稿にあたって,いくつかの追加実験を行ったところ,未分化なオスES細胞においてはTsixのスプライシング欠損を持つX染色体からのXistの発現量が野生型のそれに比べ有意に高いことがわかった.これは胚における前年度からの解析結果と一見矛盾するが,Tsix^<ΔSA>アリルを持つこのES細胞を分化させるとXistの発現は野生型同様消失することから,やはりTsixを介したXistの発現制御機構に大きな影響はないことが改めて示された.さらに以前作製したTsix^<ΔSA>とよく似た構造を持つもののTsixによるアンチセンス転写は正常に認められる改変アリル(Xist^<1lox>)を持つES細胞を用いて同様の解析を行った結果,この場合も未分化なES細胞においてのみXistの発現上昇が認められ,分化誘導後のXistの発現は適切に抑えられることがわかった.これらの結果から,Tsix^<ΔSA>とXist^<1lox>で共通に欠失している領域に未分化状態特異的にXistの発現制御に効果を持つ配列が存在すると考えた.一連の成果はDevelopment誌に掲載された.現在は,新たにその存在が示唆された未分化状態特異的に効果を持つXistの発現制御配列について解析を進めている.polIIによる転写の意義に関しては,現在中断している.
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