研究概要 |
イネエピジェネティック変異体Epi-d1は、倭性の表現型と正常の表現型を1つの個体内に併せ持つキメラ変異体である。Epi-d1変異体の生育中における表現型の変化は可逆的かつ不安定であり、世代を超えてもその表現型が固定せず、その遺伝様式はメンデルの遺伝法則に従わない。Epi-d1変異体(Oryza sativa, ssp.japonica)とカサラス(Oryza sativa, ssp.indica)の雑種集団を育成し、約16,000個体のF2,を用いて原因因子のポジショナルクローニングを行い、候補領域を約33kbに特定した。この候補領域には三量体Gタンパク質α-サブユニットをコードする矮性遺伝子D1が座乗していた。この遺伝子の機能欠損型変異体(d1)と.Epf-d1変異体の矮性部位の表現型は酷似していたため、d1変異体とEpi-d1変異体とを交配し同座性検定を行ったところ、F1はd1型の矮性表現型を示した。これらの結果から、Epi-d1変異体の表現型の不安定性にD1遺伝子が関与していると推定した。続いて、Epi-d1変異体における正常部位と矮性部位からDNAを抽出し塩基配列を決定したが、野生型とEpi-d1変異体のD1遺伝子塩基配列に変異は見いだされなかった。またEpi-d1変異体の正常部位と矮性部位間においても塩基の変位は存在しなかった。そこで、Ep1-d1変異体におけるD1遺伝子の発現解析を行った。Epi-d1変異体の正常部位ではD1遺伝子が発現していたが、矮性部位では発現が観察されなかった。これらの結果より、Epi-d1変異体における矮性表現型と正常表現型のキメラ性は、D1遺伝子発現のOn, Offに規定されていると結論した。続いて、D1遺伝子の発現を規定している領域を推定するために、Epi-d1変異体にカサラスを戻し交雑した後、マーカー選抜により得られた準同質遺伝子系統(D1近傍領域がEpi-d1変異体由来でその他のゲノム領域がすべてカサラスに置換された系統)を用いて表現型およびD1遺伝子の発現を調査し、Epi-d1変異体におけるD1遺伝子発現を制御する領域がD1遺伝子のシスに存在することを明らかにした。遺伝子発現とDNAメチル化には相関が有ることが知られている。一般的にDNAのメチル化は転写を抑制し、脱メチル化は転写を活性化させる。そこで、Epi-d1変異体におけるD1遺伝子発現とDNAメチル化の関係を調査した。まず、D1遺伝子の転写開始点を決定するとともに、この領域のメチル化状態をメチル化感受性制限酵素を用いて調査した。その結果、D1遺伝子が発現せず倭性になっている部位ではD1遺伝子の転写開始点の直前がメチル化していること、逆にD1遺伝子が発現し表現型が正常になっている部位では脱メチル化していることが明らかとなった。
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