研究概要 |
分子シャペロンは,ほどけたポリペプチドのフォールディングを助け,タンパク質としての機能を与える.あるいは逆に,固くまとまってしまったポリペプチドを一度ほどくことによって再利用したり,脂質膜で隔てられた領域の間を効率的に輸送したりすることを可能にしている.このようなポリペプチドの動的な構造変化に応じて,分子シャペロン自身も構造を変化させる.本研究では,シャペロン分子全体の結晶構造を決定し,ATP加水分解に伴う構造変化とシャペロン機構についての構造基盤を確立することを目的とした.リボソームで合成されたばかりのポリペプチド鎖のフォールディングを助けるDnaK・DnaJ・DafA複合体,および,小胞輸送の最終段階で膜小胞と標的膜との融合で働くNSFを解析対象として研究を開始した.DnaK・DnaJ・DafA複合体については4.4Å分解能の回折データセットを収集したが構造決定までには至らなかった.DnaJ単体についても3.2Å分解能の回折データセットを収集したが,回折の異方性が高く構造を決定することができなかった.酵母のNSFであるSec18Pについては,10種類の発現コンストラクトについて様々なアデニンヌクレオチド存在下での結晶化スクリーニングを行なったが結晶は得られなかった.一方,ATPに依存した膜透過を行なう膜透過装置複合体SecDFおよびSecYEについて,京大ウイルス研の伊藤維昭教授との共同研究を行なって来た.好熱菌由来のSecDFおよびSecYEについて,分解能3.7Åおよび3.2ÅのMAD回折データセットを収集した.SecYEの構造は,Fabフラグメントとの複合体の状態で3.14Å分解能で決定した(R_<free>=0.32).機能上重要であると示されている領域の電子密度も比較的明瞭であり,膜透過メカニズムがより詳細に明らかになるものと考えている.
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