研究概要 |
1.固体型色素増感太陽電池における開回路電圧向上: これまで、酸化チタンをはじめとする多孔質酸化物半導体層の表面に酢酸マグネシウム等の酢酸塩を被覆修飾することにより、Voc(開放電圧)が向上できることを見出している。本研究では、TiO_2電極を色素吸着後に酢酸マグネシウム溶液に浸漬させる方法(後処理)、色素吸着前に浸漬させる方法(前処理)、および色素溶液に酢酸マグネシウムを添加する方法(同時処理)の3つの方法で処理を行い、固体型色素増感太陽電池の光電変換性能におよぼす影響について比較検討した。N3色素では、後処理によってVocが向上し、光エネルギー変換効率を1.5%から2.2%まで向上させることができた。これは、酢酸マグネシウムが酸化チタン電極内の電子とヨウ化銅との電荷再結合を抑制したためであると考えられる。NKX2677色素については、前処理によってVocだけでなくJsc(短絡電流密度)も向上し、変換効率を1.4%から2.3%まで向上させることができた。この前処理の場合は、色素吸着量が増加するためにJscが増加することがわかった。 2.非錯体型有機色素の固体型色素増感太陽電池への適用: 最近、湿式色素増感太陽電池において、従来のルテニウム錯体色素の性能に匹敵する非錯体型有機色素が報告されている。有機色素は、価格、供給量の面で優位であるばかりでなく、吸光係数が大きいので、ルテニウム錯体色素よりも少ない吸着量でも、良好な光吸収効率が期待できる。固体型色素増感太陽電池では、酸化チタンの膜厚を厚くするのが難しいという問題点があったが、有機色素を使えば膜厚が薄くても充分な光吸収効率が得られると考えられる。そこで、いくつかの有機色素について固体型色素増感太陽電池への適用を試みた。クマリン色素(NKX2677)を用いて作製した固体型DSSCの結果について、I-V特性および諸特性データから評価した。クマリン色素ではN3色素よりも高い電流が得られており、吸光係数が高いことが反映されていると考えられる。また酢酸マグネシウムによる表面処理では、Jscはやや低下するもののVocが大幅に向上し、変換効率3.9%が得られた。さらに、酢酸マグネシウムを焼成し酸化マグネシウムとすると、Isc, Vocがやや低下する。これらの結果は酢酸マグネシウムによる逆電子輸送の抑制によるものと考えられる。一方,同じ有機色素でもインドリン色素の場合は表面処理によりむしろ効率は低下する傾向にあり,従来のRu色素も含めて色素による違いが現れている。この原因を解明し,色素ごとの吸着状態を最適化することにより,更なる高効率化が期待できる。
|