研究概要 |
本研究は原子像を直接観察できる原子間力顕微鏡を用いて、局所的に電場を印加して光触媒反応を加速させ、有機薄膜にナノスケールのパターニングを形成させることを検討した。また、得られたナノパターンを、光触媒反応で高速かつ高精度で転写する手法についても検討した。 AFMで作成されたナノパターンを転写する光触媒薄膜の作成を検討した。数nm以下の表面粗さを持つ薄膜として、非晶質のTiO2,SnO2,In2O3,NiOを原子層堆積法(ALD)法ならびにスパッタリング法により作成した。ALDで作成した非晶質TiO2は残念ながら光触媒能を持たなかった。非晶質In2O3,NiOも高い光触媒能を示さず、非晶質SnO2が比較的良好な光触媒能を示した。更に光触媒能を高めるため、キャリア濃度の異なるSnO2薄膜を3層構造にし、フェルミー準位の違いによる内部電場の生成を試みた。その結果、3層構造SnO2は非晶質で表面荒さが1nm以下でありながら、結晶性アナターゼTiO2と同等の光触媒機能を示すことが明らかになった。 この3層構造SnO2を用いてパターン形成を行い、OTS/Siに転写することを試みた。30minの紫外線照射により、OTSの表面に変化は現れたが、不十分なパターン形成となった。こうしたOTSの分解速度に関する実験から、非晶質SnO_2の光触媒能は余りにも低く、実用には適しないことが明らかになった。そこで、新たにスパッタリング法により非晶質TiO_2,Nb_2O_5,Ga_2O_3薄膜の作成を行い、光触媒能とOTSの分解反応を評価した。これ等の薄膜のXRDパターンには、何らの回折ピークも見られず、非晶質あるいはナノクリスタルであることが分かる。また、AFMによる表面形態観察からも全く粒子成長は起こっておらす、平坦な表面であることが確認された。OTSとSiは最初96及び55°の接触角を持っている。SnO_2ではほとんど接触角は変化していないが、Ga_2O_3,TiO_2,Nb_2O_5では、大きな接触角変化が認められる。特に、TiO_2では高い酸素分圧と低真空3x10-2Torrで作成した試料では、紫外線照射5分以内でOTSの完全分解が実現している。これは、高真空状態ならびに大きな高周波出力では、ターゲットから放出された酸素負イオンが薄膜に打ち込まれ、欠陥準位を形成するためである。注目すべき点は、非晶質でありながら高い光触媒を有することであり、酸化チタンナノクリスタルの存在が示唆される。この非晶質TiO2を用いてパターンの転写を検討したところ、30秒の紫外線照射でOTSの部分分解が起こり始め、パターンの転写が進むことを確認された。しかし、パターンの空間分解能は充分でなく、その原因として生成したH2O2が光照射によりOHラジカルを生じためと考えられる。
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