研究概要 |
従来の植物の感染応答研究では主に、個体全体や、組織レベルでの代謝変動や遺伝子発現パターンの追跡に終始しており、個々の細胞で生じている応答のいわば"静的な平均"しか見てこなかった。しかしながら、感染応答メカニズムの全容を捉えるには、細胞の機能分化、すなわち、特定細胞内あるは、細胞間における代謝産物の動態を把握することが重要である。これをなしうるには、試料が生きた状態あるいは、より生に近い状態で個々の細胞の代謝分析を行う技術が必要になる。申請者はこれまで、パルスレーザーを用い、植物組織中の単一細胞に人為的感染反応を生じさせる技術、特定細胞から細胞内容物を取得する技術等の開発に成功している。本研究では、これらの技術と、本特定領域の主眼である顕微分光分析技術さらには近年発展の著しいデータマイニングの手法を組み合わせて、病原微生物感染時に誘起される動的代謝変動を個々の細胞レベルで解析することを目的としている。本年度は、非侵襲で,細胞応答・代謝変動を1細胞レベルで解析するために,レーザー顕微分光解析の検討を行った.エンバク葉肉細胞組織に対してエリシター処理(〜48時間)し,解析を行った結果,アベナンスラミド類に特徴的蛍光を観測し,処理の有無によって蛍光波長-空間マップに明瞭な差異が見られた.また,Capillary LC-ESI-MS分析を用いて解析を行った結果,蛍光波長-空間マップにおける差異が代謝産物の量比と相関関係があることが示された.このことにより、これらの技術・解析手法を用いることでエリシター刺激を受けた細胞及び周辺細胞の時間的・空間的な動的感染応答反応を1細胞レベルで解析可能であることが示唆された.
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