研究課題
特定領域研究
ノルゾアンタミンの抗骨粗鬆症活性の作用機序を探索する目的で本年度はその産生生物内での生物学的意義に焦点を当てて研究を行った。刺胞動物の一種であるスナギンチャクは湿重量で0.1%以上ものゾアンタミン類を含んでいる。そしてゾアンタミン類は細胞毒性をほとんど示さない。なぜスナギンチャクは無毒なゾアンタミン類をこれほど大量に保有しているのか。一つの可能性として細胞骨格の一部を占めているのではないかと考え、この観点からスナギンチャク内に存在する脂質やタンパク質にどのような作用をするかを調べた。スナギンチャク内のリン脂質とコレステロールを定量したところ、スナギンチャク近傍に生息していたイワスナギンチャクとほぼ同程度であった。またノルゾアンタミンはリポソーム内にとどまらなかったことより、コレステロールのような膜補強の役割はしないと考察した。次にαヘリックスやβシート構造をとるペプチドに対し、その高次構造を乱す作用を示すことを見出した。続いてBSAを用いてタンパク質にどのような挙動を示すかを調べた。動的光散乱測定ではタンパク質の凝集を阻害し、ノルゾアンタミンが弱い相互作用を示すことが示唆された。またノルゾアンタミン1mM程度の高濃度条件下ではBSAの分解を防ぐことから、BSA表面に広く非特異的に分布して、一種のタンパク質保護作用を示していることが考えられた。このことはNMRを用いた飽和移動測定(Saturation Transfer Difference NMR)によってノルゾアンタミンのA環のエノン部分がBSA表面に近接している事実からも支持された。BSAなどのアルブミン類は生体内に普遍的かつ比較的大量に存在する可溶性タンパク質群ある。もしゾアンタミン類がタンパク質に普遍的に相互作用するならば親和性の低さを補うために多量に存在することが必要となる。すなわちスナギンチャク内に大量に存在することは低い親和性でタンパク質と相互作用するための必然であると解釈できる。すなわちスナギンチャクはこのようなタンパク質安定効果を期待してゾアンタミン類を大量に保存しているのではないか。BSA自身はスナギンチャク内に存在しないので、細胞骨格の一翼を担うタンパク質としてコラーゲンについて同様の実験を行った。内在性のプロテアーゼによる分解の可能性を否定するためにコラーゲンを加熱処理し、紫外線照射を行ったところノルゾアンタミンの添加がコラーゲンの分解を抑制している結果を得た。すなわちタンパク質の分解は内在性の酵素によるものではなく酸化による分解を示唆しており、ノルゾアンタミンが一種の抗酸化作用を示す知見を得た。スナギンチャクは直射日光にさらされた環境で生息しており、紫外線照射によって生じる様々な活性酸素種から身を守るためにゾアンタミン類の鎧のように身にまとっている可能性がある。そしてこの知見は報告されている抗骨粗鬆症活性の作用機序のひとつのヒントを与えているのではないかと考えている。
すべて 2006 2005
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ChemBioChem 7
ページ: 134-139
Analytical Chemistry 77
ページ: 5750-5754