研究概要 |
キノコを対象に,特異なバイオアッセイ系を用いて,優れた治療薬・予防薬の少ない疾病に標的を絞って,新規活性物質の探索を行った。 1)NGF(nerve growth factor,神経成長因子)合成促進物質の動物実験による評価 出生直後のラットにエリナシン(erinacine)Aを毎日経口投与(体重1kg当たり8mg)したところ,4週目で脳の青斑中のドーパミンの量はエリナシンAを与えていないコントロール群と差は無かったが,その代謝産物である3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸やホモバニリン酸が有意に上昇した。またノルアドレナリンの量も有意に高かった。5-ヒドロキシインドール酢酸,5-ヒドロキシトリプタミンなどには差がなかった。さらに5週目に脳の各部位のNGF量を比較したところ,嗅球と大脳皮質ではコントロールと差が無かったが,青斑と海馬中のNGF量は大きく上昇していた。 2)キノコ由来のアミロイド-β-ペプチド毒性抑制物質 ヤマブシタケからアミロイド-β-ペプチドの毒性を抑制する物質を単離,同定し,作用機構の検討を行った。 3)抗MRSA物質: 研究代表者の上記のような抗痴呆物質に関する研究を契機に,老人専門リハビリテーション病院においてヤマブシタケの臨床試験が行われている。その際,偶然にもこのキノコの服用患者のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染症が消失したことが確認された。そこでMRSA臨床分離株を入手し検討したところ,このキノコの脂溶性画分にMRSAに対する抗菌作用を見いだした。活性物質の単離を試み,新規物質(エリナシンJ,K)を得た。 4)抗アレルギー物質 皮膚炎症モデルマウスを用いた結果で,メシマコブ抽出物の投与によってアレルギーが抑制された。抗アレルギー物質(脂溶性低分子および水溶性高分子)の精製,構造決定,活性発現機構の解明を目指している。
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