研究課題
特定領域研究
本研究では、癌細胞で過剰発現している遺伝子に対してハイブリッドを形成しその発現を阻害すると同時に、薬剤を放出することで標的タンパクの機能を制御する、マルチ制御機能によりシグナル伝達をコントロールできる機能性分子の開発を目的としている。すでに私は標的との2本鎖内で特異的に活性化されシチジンに対して選択的にクロスリンク反応する2-amino-6-vinyl purineを開発している。さらにこの反応中で反応性官能基のマスキング剤に使ったスルフィド基で結合した分子が放出されることを確認している。本年度はまず細胞内で標的に対してハイブリッドを形成し、スルフィド官能基を効率よく脱離する構造を検索する目的で、これらの反応を可視化できる方法の構築を計画した。その方法としてFRET現象の利用を計画し、まず2つの蛍光団を持つ機能性オリゴDNAを合成し、スルフィド結合した消光団が遊離しFRETが解消されることで増強される蛍光を指標に、標的遺伝子に対しハイブリッドを形成することで容易に遊離するスルフィド官能基の検索を行った。その結果、消光剤としてダブシル基をスルフィド結合させた2-amino-6-alkyl purine誘導体を含むオリゴDNAの末端に、蛍光団としてフルオレセインを導入したオリゴDNAが、効率よくFRET現象を起こすことを見出した。さらにこのオリゴDNAを、試験管内で標的位置にシトシンを含む配列のオリゴDNAと混合したときのみ、消光剤の脱離に伴う蛍光の増強が観測された。この結果は今回合成した機能性オリゴDNAが、標的に対して選択的なハイブリッド形成することで増強される蛍光を指標に、細胞内における化学反応も追跡できるものと考えられる。本年度の研究により細胞内におけるマルチ制御機能によりシグナル伝達をコントロールする機能性分子の開発の方法論の基礎が確立したものと考えている。
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