研究概要 |
有機化合物のサーモクロミズムでは互変異性のように,分子内部にサーモクロミズムの起源を求めることができるのが普通である.相転移ほどに協同性は本質的で無いが,協同性無しには発現しない現象としての「分子間相互作用によるサーモクロミズム」の存在が確立すれば,ナノ空間における分子凝集機構や相互作用のプローブとしてサーモクロミズムを利用することができるようになる.本研究では,簡単な有機物の示すサーモクロミズムにおける分子間相互作用の効果を,ゼオライトの作るナノ空間を利用して解明することを計画した.3,6-ジフェニル-1,2,4,5-テトラジンについて検討を行った.溶液状態ではサーモクロミズムを示さないことを確認した.精密熱容量測定と低温結晶構造解析によりサーモクロミズムの見られる室温と液体窒素温度の間に相転移が無く,サーモクロミズムが相転移によるものでは無いことを確認した.可変可視紫外吸収スペクトルは温度低下により振動構造が顕著になったが,これサーモクロミズムの原因でないことを色度計算により確認した.吸収(および反射)ではサーモクロミズムが説明できなかったので発光スペクトルを測定し,橙色に相当する発光の強度が液体窒素温度では室温の10倍になることを見出し,サーモクロミズムの基本的原因が発光の増加によることを明らかにした.結晶特有のサーモクロミズムの原因は,結晶中のCH・N相互作用による分子配列と結晶の熱収縮によるCH・N相互作用の強まりのために,低温では分子の変形が抑制され,励起状態での内部転換が抑制されたためと考えられた.熱収縮によるCH・N相互作用の増強は分子内振動のラマンスペクトルおよび赤外吸収スペクトルの観測により確認された.振動モードの帰属や可視紫外吸収の解析には量子化学計算の結果を利用した.ゼオライトに吸着した状態ではサーモクロミズムを示さないことも上記の結論を支持する.
|