研究概要 |
ボトムアップ的な手法により作成された、今までに無いデザイン及び配位空間を持つ新物質の原子配列、すなわち構造を明らかにすることは、作成された物質の同定だけでなく、配位空間形状からポテンシャルなどを議論するうえで最も重要である。配位空間を持つ新物質の構造決定には、単結晶X線構造解析が一般に用いられるが、新物質では単結晶が得られないことも多い。この様な場合でも、粉末試料なら得られることが多いため、粉末試料からのab-initio構造決定は、配位空間を持つ物質のScienceにおいて重要な役割を果たすと考えられる。 本研究では、配位空間を形成する2種類のフェロセン-アントラキノン共役接合錯体(1,4-(FcBz)_2Aq,1,4-Fc_2Aq)について、SPring-8で得られた粉末回折データを用いた、1.ab-initio構造決定、2.ゲスト分子の脱離に伴う構造変化の観測をおこなった。 1.独自に開発した粉末ab-initio構造決定法と改良したRietveld法とMEMを組み合わせた方法により、1,4-(FcBz)_2Aqの構造を決定した。残念ながら配位空間は形成していなかったが、粉末回折としては十分な信頼度因子(Rwp=1.03%,R_I=3.84%)で構造を決定した。また、THFなどと共に結晶化した1,4-(FCBz)_2Aqは、全く異なる回折パターンをとることが最近判明した。 2.2種類の溶媒分子o-ClBzとhexaneを吸着した1,4-Fc_2Aqについて、ゲスト分子の脱離に伴う構造変化をSPring-8における放射光粉末法により調べた。室温(300K)〜360Kにおける粉末回折パターンを測定した。その結果、300K、340K、360Kで全くピーク位置が異なっていることがわかる。解析から360Kですべての溶媒が脱離していることがわかった。また、300Kと340Kでは、どちらも溶媒を取り込んでいるが、構造が結晶系まで含めて異なることもわかった。
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