研究概要 |
配位空間は,通常の多孔体の対極とも言うべき「空間の中に薄い壁or柱が発達した」構造を持ち,また壁は原子オーダーで極めて薄い。従って,ある細孔空間内の分子が,壁を隔てた隣接する細孔内分子の相互作用を感じることが可能と思われ,一般的な多孔体内部での相挙動の理解とは異なる特異性が生じ得る。本研究は,このような配位空間内での相挙動の特異性に着目し,分子シミュレーションによる現象把握と,その機序解明を目指すものである。 1.配位空間の超薄壁多孔体としてのモデル構築 ナノ配位空間の本質的な特徴を見出すべく,錯体の詳細な原子構造には拘泥せずに,現実系の特徴を踏まえた単純な空間として2次元正方格子型の錯体がスタックした1次元チャンネル群を第一のモデルとし,平衡バルク相状態を設定可能なGCMC法により,Lennard-Jones流体の相挙動を検討した。 2.特異性検討 グラファイト面相当の壁に囲まれた約4分子ほどの有効空間(4.7σ)内のLJメタンは,185K付近という,バルク流体の臨界温度に相当する極めて高い温度で,固体相当の密度を示した。このような非等法的な分子集団についても,我々は各チャンネル内での二体相関を得ることに成功し,185K付近の構造は,さらに高温での液体的状態とは明確に異なり,六方配置構造をとっていることを明らかにした。 このような極めて高温での固化は,第一には狭隘空間ゆえのポテンシャルの重畳に起因すると思われるが,第二には,壁を越えた分子間の相互作用も顕著な寄与を与えていること,さらに,第三の効果として,二方向に制限壁があることによる移動度の低減が寄与している可能性が示唆された。 1年での検討ですでに極めて特異な相挙動が見出されており,今後のさらなる知見の蓄積による,現象把握の深化,モデル化を経て,配位空間応用のための基礎知見の充実が大いに期待されると考える。
|