研究概要 |
Au(111)電極表面に形成されたグルタチオン(GSH)自己組織化単分子膜(SAM)の金属イオンに応答した配向変化の分子機構を明らかにすることを目的とした。GSH SAMは、溶液中の多価カチオンの性質と濃度に依存して、電極反応のブロッキングの強さを変えることが知られている。錯体に対する電極反応速度の増加は酸化還元体イオンを透過させるチャンネルの形成による「ion-gating」機構によって説明されてきた。我々は、多価カチオンとグルタチオンの相互作用による構造変化のみでこの現象が説明されるのではなく、自己組織化膜末端の解離基と多価カチオンが錯形成して構築した2次元配位空間上での電気二重層によるポテンシャル(電位)が酸化還元反応を制御しているのではないかという仮説をたて,それを実験および理論的に検証することを試みた。 我々は、Au(111)単結晶表面へGSHを吸着させ,膜の最適な生成条件を,浸漬時間、溶液の種類、溶液のpH等の条件を変えて求めた。自己組織化単分子膜の還元的脱離から、吸着量・膜の分子間相互作用を求め偏光変調表面反射赤外分光測定より自己組織化膜の吸着量・配向を解析した結果、緻密で安定な自己組織化膜を生成するには3日間の浸漬が必要であることが明らかとなった。自己組織化単分子膜の還元脱離CVの結果から,カルシウムの有無に関わらず,グルタチオンはアルカンチオールの吸着量の70%程度吸着している。この吸着量から,金に吸着している硫黄原子間の平均距離は6Åとなった。水中でのグルタチオンおよびカルシウム錯体の構造の量子化学計算および錯体の大きさ(6Å)を考慮すると単純な「イオンゲート」機構だけでは説明できないように考えられる。
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