研究概要 |
我々は銅イオン交換MFI型ゼオライト[CuMFI]中の銅イオンの状態解析の過程で,偶然,窒素がこの物質に室温で吸着される現象を世界で初めて見いだした.通常,窒素は不活性な気体であるが,我々が見いだしたこの現象を応用すれば室温での新規な窒素吸着剤の開発も夢ではない.しかし,この吸着サイトの状態についてはほとんど明らかになっていない.さらに,この銅イオンの状態解析のために,水素吸着を通した研究を計画した.その研究過程で,再び,室温での水素の特異吸着現象およびH-D交換反応を見出した.この銅イオンの状態解析のために,水素吸着を通した研究を計画した.その研究過程で,再び,室温での水素の特異吸着現象およびH-D交換反応を見出した.本研究では銅イオン交換ゼオライトについて,窒素および水素の吸着サイトの解析を行い,それらの分子に対して吸着サイトとして働くゼオライト中での銅イオンの構造および電子状態の特徴の解析を行うことを目的とした. 室温での窒素や水素の吸着現象解析のために,まず種々のイオン交換法で試料(CuMFI-X : Xはイオン交換量%)調製した.試料の調製法に依存した窒素の吸着量(298K)の変化を調べた.また,たとえば,窒素の吸着量の最も多い試料について,CO分子の吸着等温線(298K)を測定し,これより全銅イオン量に対する一価銅イオン量の割合をCu^+/Cu=0.86と見積ることができた.さらに,この試料では,一価銅イオンの内の約82%が窒素分子に対して吸着活性サイトとして働くこともわかった.室温で吸着N_2種の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ基準振動,結合音,倍音振動領域で測定した.気体の窒素分子は双極子モーメントをもたないので赤外線吸収バンドは観測されない.それにも関わらず,吸着窒素種に帰属できる強い赤外線吸収バンドが2295cm^<-/>に観測された.吸着種の結合音,倍音に由来するバンドも観測された.吸着種の基準振動と結合音によるバンドからCu-N≡N種のCu-N結合は360cm^<-1>程度と見積ることができた.更に窒素の吸着熱のデータを測定した結果,初期吸着熱は87kJmol^<-1>程度であった.この値は室温での窒素吸着熱としては極めて大きく,N≡N結合の解離エネルギーの一割程度の大きさに対応する.このような室温での窒素分子の強い吸着は極めて特徴的な現象である.
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