研究概要 |
ゾルゲル法を適用しシリカ骨格内に安定に、希土類添加SnO_2ナノ結晶を固定化することができている。このSnO_2:Re^<3+>ナノ結晶はEu^<3+>の場合、近紫外光(〜340nm)励起において高い量子効率をもって発光することが分かっており、昨年度までにSnO_2:Tb^<3+>(緑)、SnO_2:Ce^<3+>(青)を加えて3原色化も可能にしている。これらはSiO_2骨格へのRe^<3+>イオンおよびSn^<4+>の固溶度が極めて低いためであり、高効率ナノ結晶材料として有望である。しかしながら、シリカSiO_2は絶縁体であるため電子線励起では発光しないなどディスプレイ材料への展開を困難にしている課題があった。そこで、マトリックスに同じ4価金属酸化物であり導電性も期待できるTiO_2に替え、TiO_2-SnO_2:Eu^<3+>の発光特性を調べた。 試薬にTi(OC_4H_9)_4,(CH_2CH_2OH)_2NH,SnCl_2-2H_2O,EuCl_3-6H_2Oを用いゾルを調整し、石英ガラス基板にディップコーティングを施したものを乾燥させて、前駆体薄膜を作製した。ディップコーティング〜乾燥の工程は2回行った。TiO_2の結晶化には、(A)空気中で2時間加熱処理を行なう、(B)紫外線レーザー(3倍波YAGレーザー,355nm,10ns)を照射する、という2つの方法を採用した。TiO_2結晶相はRamanスペクトルから決定した。 (A)の方法では、400℃以上でアナターゼ、900℃以上でルチルが得られ、添加したEu^<3+>の発光は300℃においてはブロードな^5D_0-^7F_2赤色発光であったが、400℃以上で不均一広がりが減少し、結晶内の:Eu^<3+>発光に特徴的な鋭い発光線が得られた。発光強度は加熱温度の上昇にともなって増加した。しかしながら、900℃以上でアナターゼールチル転移が起こるとHu^<3+>発光はブロードに、強度は減少し、1000℃加熱ではもはや発光は得られなくなった。アナターゼ相においてEu^<3+>発光の励起スペクトルを測定したところ、310nmおよび390nmに励起バンドを確認した。前者はナノサイズ化したSnO_2結晶の、後者はアナターゼ母体の、それぞれバンド間遷移に対応している。一方、(B)レーザー照射法では800mW、5分以上の照射時間で直接ルチルが析出することが分かった。Eu^<3+>の発光強度は照射時間と共に増大していった。発光スペクトルからはEu^<3+>は乱れた構造に位置していることが分かった。励起スペクトルでは、340nmおよび410nmにバンドが存在し、それぞれ、ナノサイズSnO_2結晶、ルチル型TiO_2結晶母材のバンド間遷移に対応していた。 (A),(B)の場合共に、Eu^<3+>イオンは半導体のバンド間遷移で励起された電子-正孔対の非輻射的エネルギー移動により、発光していることが分かった。導電性母材への展開にはルチル型が好ましいと考えており、レーザー照射法がSnO_2ナノ結晶を包含したTiO_2系蛍光体の作製に有用であることが分かった。
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