研究概要 |
我々は過去数年間に渡り、III-V族半導体中で希土類元素を原子のレベルで操ることにより、新しい物性・機能を効果的に発現させるとともに、それらを有効に活用した新規デバイスを創出することを目指している。現在のところ、Er原子周辺局所構造がEr-20配置へ秩序制御されたEr,0共添加GaAs(GaAs:Er,0)を取り上げ、それを活性層とした電流注入型1.5μm帯Er発光ダイオードの室温動作に世界に先駆けて成功している。また、Er発光ダイナミクス測定から電流注入下でのEr励起断面積を見積り、活性層厚300nmにおいて1x10^<-15>cm^2という巨大な値を得ている。昨年度は、発光デバイス性能をより一層向上させる指針を得ることを目的に、GaAs:Er,0におけるポンプ・プローブ光反射率測定を行い、ピコ秒の時間軸で発現する特徴的な励起機構を明らかにした。また、光励起下でのEr発光特性の解析より、Er濃度に依存する非輻射プロセスを明らかにした。 今年度は、有機金属気相エピタキシャル法によりEr添加濃度が極めて低いGaAs:Er,0(1x10^<17>cm^<-3>程度)を作製し、Er発光特性や光励起キャリアダイナミクスの評価を通じて、Erイオンの励起および緩和過程に関する理解をより一層深めることを目指した。得られた知見は下記の通りである。 (1)77Kにおいてフォトルミネッセンス測定を行ったところ、すべての試料において、GaAsバンド端発光とEr-20発光の両方が観測された。また、それらの発光強度が作製時のEr流量(Er添加量)に依存して相補的に変化することを明らかにした。 (2)そのGaAs:Er,0を活性層としたGaInP/GaAs:Er,0/GaInPダブルヘテロレーザ構造を作製し、室温においてGaAsバンド端でのレーザ発振を観測した。また、その発振閾値電流はEr添加量とともに増大した。 (3)非平衡キャリアダイナミクスを調べるために、ポンプ・プローブ光透過率測定系を新たに構築した。Er添加特有の早い緩和成分を見出し、GaAs:Er,0においてより顕著であることを明らかにした。
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