研究概要 |
造血幹細胞が,自己複製をしながら特異的な性質を持った多系列の血液細胞に分化する過程では,遺伝子発現の特異的かつ精密な制御が必須である.GATA因子群に属する転写因子GATA-2は造血幹細胞や未熟な前駆細胞を中心に発現している.また,GATA-2遺伝子の発現制御領域の詳細な解析により,自分自身の発現を正に調節する一方で,同じGATA因子群に属するGATA-1によりその発現が負に調節されている明らかになりつつある. GATA-2は造血幹細胞の維持と増殖に必須な因子であるが,従来の遺伝子ノックアウトマウス法では,胎児期における重篤な造血機能障害に基づく致死表現型により,それらの機能欠失を成体造血において深く解析することは困難であった.そこで,誘導的かつ臓器特異的にGATA-2の発現を抑制し,個体における造血幹細胞から系列特異的な血液細胞への分化のメカニズムを解析する目的で,条件付きGATA-2遺伝子ノックアウトマウス(G2CKO)の樹立を試みた.その作成過程で,同時にGATA-2ノックダウンホモ(G2^<KD/KD>)マウスを樹立したが,本マウスは泌尿器発生の異常により約7割が3週齢までに死亡した.残りの約3割は成獣に達したが,これらのマウスは加齢に伴って末梢血の単球増多と血小板数減少を示し,著明な脾腫を呈した.また,骨髄および脾臓では,Lin^-c-Kit^+CD34^+Scar^<-/low>分画の細胞増加とともに,単球・骨髄球系細胞が著明に増加し,赤血球系前駆細胞は減少していた.さらに、G2^<KD/KD>マウスの骨髄細胞では致死的放射線照射マウスの長期骨髄再建ができなかった.これらのことは,GATA-2が成獣骨髄造血幹細胞の維持増殖の調節に関わっていること,さらに,骨髄球系細胞と赤血球巨核球系細胞への系列決定を調節している可能性を示唆する. G2^<KD/KD>マウスを用いた造血幹細胞から系列特異的な血液細胞への分化のメカニズムの解析と,G2CKOマウスのGata2遺伝子誘導的ノックアウトを用いた造血幹細胞の細胞自立的な増殖・分化の解析も進行中である.
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