研究概要 |
蛋白質の非特異的な凝集を防止するとともに安定性を向上させる低分子化合物やその使用法を開発し,膜蛋白質研究を推進することを本研究の目的とした.蛋白質が凝集すると質の良い結晶ができないだけでなく,溶液NMRの感度や分解能が著しく低下する.NDSB (non-detergent sulfobetain)という一群の化合物は蛋白質の凝集を防ぐ事が知られているので,NDSBが凝集を防止するメカニズムを検討するとともに,膜蛋白質のNMRにNDSBを応用した. 1.NMR条件下での蛋白質の凝集:動的光散乱測定では単分散状態と判断される蛋白質サンプルの溶液NMRを測定しても,凝集した蛋白質のスペクトルが得られる事がある.これはNMR測定に固有の条件が凝集を促進している事が原因であった.その原因は3つあり(ガラスNMRチューブ,化学シフトの基準物質,重水中の不純物),これらを除去することによって,サンプルの寿命が延び,良質のスペクトルが得られるようになった. 2.NDSB添加によるNMRスペクトルの向上:溶液NMRは測定温度が高いほどシグナルがシャープになり,良質のスペクトルが得られる.しかし,高温にすると蛋白質が凝集しやすくなる.NMRサンプルにNDSBを添加すると高温でも蛋白質が凝集しなくなる事がわかった.この方法を適用する事により,膜蛋白質の一種であるGi1αのシグナルが帰属できるようになり,活性化に伴う立体構造変化も追跡できるようになった. 3.NDSBと蛋白質との結合:NDSB存在下ではユビキチン等の蛋白質の回転半径が大きくなるので,NDSBは蛋白質に結合している事が明らかとなった.
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