研究課題
特定領域研究
チトクロムb_6f複合体は、葉緑体のチラコイド膜中に存在し、2量体あたり16個のサブユニットによって構成される分子量22万の超分子複合体である。その機能は光化学系IIにより光還元された脂溶性キノンから電子伝達蛋白質プラストシアニンへと還元電子を伝達すると共に、電子伝達と共役してH^+を膜のストローマ側からルーメン側へと輸送するポンプの役割も担っている。立体構造が判っていない高等植物のb_6f複合体では、膜のストローマ側にFd-NADP^+還元酵素(FNR)がサブユニットとして結合することがわかっていた。そこでトウモロコシ葉を用いてMS解析を行ったところ、トウモロコシの葉緑体中には3種のFNR分子種(FNR1,FNR2,FNR3)が存在し、FNR1とFNR2がb_6f複合体に結合した状態で、FNR2の一部とFNR3はストローマに単独の可溶性状態で存在していることが判明した。このことからb_6f複合体周辺のFd依存性電子伝達が、FNRアイソザイムとFdとの分子種特異的な相互作用に関連づけられる可能性が出てきたのである。そこで、本年度はFNRアイソザイムが葉緑体中で局在化する構造基盤を明らかにすべく、この3種のFNRアイソザイムのX線結晶構造解析を行った。その結果、3種のFNRは非常に良く似た主鎖構造を持っていたが(主鎖のrmsd=0.58〜0.92Å)、N末端領域に顕著な構造上の違いを見出すことができた。FNR1が持つ大きく突き出たN末端構造は、チラコイド膜(特にチトクロムb_6f複合体)と相互作用するのに適しているのに対し、完全に可溶性領域に存在するFNR3では、対応するN末端領域は、巻き畳まれてより球状の構造となっていた。局在様式が、N末端の巻き畳まれ方に起因するとすれば、FNR2のフレキシブルなN末端は、突き出た構造と巻き畳まれた構造の両方を取りうるとして理解することが可能である。現在は、高等植物由来のFNR結合型b_6f複合体の結晶化を目指して、精力的に精製・結晶化条件の検討を行っている。
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