研究概要 |
酸化的リン酸化反応を担う蛋白質には活性中心に鉄原子を持つものが多いことから,ミトコンドリア機能の維持のためには,ミトコンドリア膜を介した鉄の輸送が重要である.しかし,過度の鉄の蓄積はヒドロキシラジカルの生成を促し,最終的にミトコンドリア機能を失わせる. ヒトABCB6は酵母ATM1ホモログとして同定されたABC輸送体である.ABCB6の機能はごく最近になって解明され,ヘム前駆体をミトコンドリア内に取り込むことによって鉄の恒常性維持に関与していることが明らかになった.また,ミトコンドリア病の原因遺伝子の可能性も考えられる. ABCB6のC末端ABCドメイン(ABCB6-C,285残基,31kDa)については,apo型およびADP結合型とも,主鎖NMRシグナルが全体の約25%の残基について観測されないことが,昨年度までの解析によって判明していた.また,これらの残基はABCドメイン間で保存されている重要な領域に局在していることから,活性発現に重要な何らかの動的構造多形の存在が示唆されていた.この動的構造多形性を確認するために,主鎖^1H^<-15>N相関クロスピーク強度のpH依存性,温度依存性,磁場依存性の解析を行なった.解析の結果,C末端約20残基にはアミドプロトンと水との早い交換が観測されたものの,そのほかの領域では動的構造多形性の存在が明らかになった.これは,既報の古細菌ABCドメインMJ1267の^<15>N緩和解析結果とも一致しており,ABC輸送体が共通に持つ性質と結論付けられる.また,この動的構造多形性がABCドメインと膜貫通ドメインの問のシグナル伝達機構を担っている可能性も強く示唆される.以上の結果に加えて,ABCB6-Cのモデル構造の検証と精密化のために,残余双極子カップリングの測定,および選択的プロトン標識試料を用いたNOE解析,ATP結合型ABCB6-Cについても解析も行った.
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