研究概要 |
本研究は回転分子モーターであるF_1-ATPaseに外力をかけて,動的な特性を明らかにするためのナノシステムの構築を目的としている.昨年度は桐蔭横浜大学工学部システム工学科の工藤成史教授の指導をいただき,誘電泳動を用いて外力(回転トルク)をかける実験系を立ち上げた.本年度はそこに高速カメラを追加するとともに,高輝度光源を導入して高速撮影(1000fps)での記録を可能にした.次には実験条件の検討を行った.回転の発見率が従来当研究室では低かったが,その原因を大阪大学の野地博士の研究室の協力を得て検討し,おもに回転観察に用いるビーズに原因があることと突き止め,改善することによって,発見率を十分に上げることが出来た.次に,F_1の変異体について従来よく使われてきたHC95変異体,ADP阻害を受けにくいGT変異体,αサブユニットにもHisタグを導入したHCXP変異体について考え,外部トルクに対してしっかりとガラス面上で安定すると考えられるHCXPを主に使うことに決定した.この実験系では溶液のイオン強度を下げなければならないため,本年度は実験条件下でのATPMgとATP, Mgの平衡関係やF_1-ATPaseの活性等を検討し,(ある程度の妥協はやむをえないとして)最適と考えられる溶液条件を模索した.さらに実験手順を洗練して外部トルクの校正を全ての実験について個別に行うことにより,データのばらつきをある程度減らすことに成功し,現在はステップ回転が観察できる条件下で外部トルクとステップ時の角速度,ステップ間のdwell timeの統計的な解析を行っている.
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