研究概要 |
高等植物の呼吸鎖にあるATP生産とは共役しないAOXは、葉において強光などのストレスのとき細胞内に過剰に蓄積した還元力の消去系として働き、最適な光合成環境を維持するために必要であると考えられている。しかし、呼吸の最大活性を考えるとAOXの消費系としての容量は小さく、AOXは光阻害回避系として別の仕組みで働くと考えられる。その解明を目的として、本研究では、光阻害の程度とAOX活性との関係、強光ストレス時のAOX活性化の仕組み、AOX阻害下での光合成系の状態について解析する。本年度は以下の解析を行った。 AOXが実際に光阻害回避系として働くのなら、葉緑体光阻害回避系の突然変異体ではAOX量の増加や恒常的な活性化が起きている可能性が高い。シロイヌナズナの光化学系II反応中心D1タンパク質の修復過程に必須であるFtsHの突然変異体(var2-1,var2-13)を用いて、強光ストレス下での葉の特性について調べた。弱光から強光下に移すと特にvar2-1においてFv/Fmが減少した。呼吸速度やシトクロムc酸化酵素、TCA回路のクエン酸合成酵素、リンゴ酸酵素の最大活性はどの株でも変化しなかったが、AOX最大活性やAOXタンパク量は強光ストレス下で増加した。特にvar2-1では弱光下でもAOX量が多く、強光ストレス下の増加量も多かった。強光ストレス下のvar2-1ではAOX1α,NDB2,UCP5といった脱共役経路の遺伝子が選択的に発現誘導されていた。var2-1の葉では活性酸素が蓄積し、脂質過酸化が起きていたことを考えると、葉緑体からの活性酸素シグナルが、AOX1αなどの発現誘導を引き起こしたと思われる。 シロイヌナズナ野生株の葉に10℃の低温処理をした後、3時間後にAOX1α,UCP5が発現誘導されていた。AOX1α,とUCP5は協調的に発現して働く可能性が高い。
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