研究課題
特定領域研究
脊椎動物を含む多くの後生生物では、初期生殖巣は体細胞により構成される。その後、全く別の場所で形成されていた生殖細胞が移動して生殖巣にたどり着き、最終的に機能的な生殖器官が形成される。従って、生殖器官の形成のしくみを考える際、生殖細胞のみならず、その受け入れ側である初期生殖巣の成り立ちを理解することは重要である。初期生殖巣は腎臓領域に隣接して、体腔中胚葉から形成される。興味深いことに、もとは同じ体腔中胚葉でも、生殖巣を作る細胞群は間充織細胞として積極的に体内に潜り込む一方で、腎臓領域付近の体腔中胚葉はこのような潜り込みはおこさず、腎臓のもっとも外側を一層の上皮細胞として覆うようになる。このような現象の観察から、次のような疑問が生じる。体腔中胚葉が間充織細胞になることが、生殖巣を作るのに必要でありかつ十分であるのか?そこでこれらの疑問に答えるべく、腎臓領域を覆う体腔中胚葉(本来は上皮のまま:腎体腔上皮と呼ぶ)を実験的に操作し、間充織細胞へと変化させるという新しい実験系を確立した。上皮が間充織化する現象はEMT(Epithelial-to-Mesenchymal Transition)として広く知られ、特にガン生物学の分野では、EMTは上皮性ガン細胞の転移と深く関係していることが知られている。実際の体内におけるEMTについては依然謎が多いが、培養細胞系では、EMTに関与する分子群は多く知られている。そこで我々は、これらの候補分子を腎体腔上皮に強制発現させ、EMTが誘起されるかについて調べた。結果、RhoAやSlug(zinc finger family)などの分子がEMTをおこす能力を持っており、逆に、Cdc42は上皮構造の維持に重要であることなどが明らかになった。今後は、EMTが誘発された腎体腔上皮が、はたして生殖巣の分化形質を獲得するかについて研究を進めていく予定である。
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