研究概要 |
骨格筋と心筋では,細胞内カルシウム濃度が1μMを越えるとアクチンとミオシンとの相互作用が活性化され,二種類のフィラメントは滑りあって筋収縮が生じる。カルシウムの標的はアクチンと結合するトロポニンであり,カルシウムによるトロポニンの構造変化は収縮制御のトリガーとなる。トロポニンは3つのコンポーネントからなっている。TnTはトロポミオシンと結合し,TnCはカルシウムを結合し,TnIはアクチンと結合して収縮を阻害する。カルシウムを結合したTnCはTnIと強く結合し,TnIの阻害活性を喪失させる。TnCとCa^<2+>の結合は結晶解析やNMR分光法で原子レベルで研究されてきたが,筋弛緩の分子機構を明らかにする上で重要なトロポニンとアクチンの結合の詳細は不明であった。アクチン・トロポミオシン・トロポニンの分子比は7:1:1であり,1分子のトロポニンが7分子のアクチンを制御しなければならない。トロポミオシンは長さが約400Åの棒状分子であり,7分子のアクチンと結合しているので,トロポニン→トロポミオシンへ伝搬すると,長さ約400Åの範囲に広がり,7分子のアクチンが制御されると想定されてきたが,その詳細は不明であった。本研究では,クライオ電子顕微鏡法で得られた細いフィラメントの立体構造から明らかにされたトロポニンのアクチン結合ドメインの原子構造を,トロポニン三者複合体のNMR分光により決定し,これを電子顕微鏡マップに当て嵌め,アクチンとトロポニンが11個の塩橋を介して結合することを明らかにした。これに関与するアミノ酸の内,6個でその変異が家族性心筋症を引き起こすことが知られており,本研究はその病因を原子モデルのレベルで明らかにした。また,アクチンに結合したトロポニンはトロポミオシンを押すことによりトロポミオシンを移動させ,アクチン7分子へと制御を拡大していることを提唱した。
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