研究課題
基盤研究(A)
申請者らは、細胞移植療法の実現化に向けて、効率よく短期間内で心筋幹細胞の大量増幅を行う目的で、遺伝子工学的手法を用い、幹細胞特異的増幅因子の同定及び機能解析を行った。心筋幹細胞を認識する表面抗原Sca-1に注目し、Sca-1ノックダウンマウスを作成し解析した結果、心筋幹細胞はbFGF依存性にAktの活性化を介して、生体内における幹細胞の増殖及び細胞移植後の生着促進に重要であることを突き止めた。同様の培養技術を用いて、ヒト心臓生検組織からの心筋幹細胞の単離・増幅技術を確立し、また、この心筋幹細胞の特異的増殖・維持因子がbFGFであることを初めて明らかにした。現在、世界初の実質的な心筋細胞分化を伴う細胞移植再生医療の実現化に向けて、ヒト心筋幹細胞移植とその増幅因子を組み合わせたハイブリッド療法(bFGF徐放生体吸収シート)の前臨床治験を進めている。本研究は幹細胞単独移植でなく、bFGF徐放生体吸収シートを組み合わせたハイブリッド療法であることが大きな特徴であり、臨床治験に向けたブタ陳旧性心筋梗塞モデルを用いたランダム割り振り前臨床治験を6カ月前から実施している。左冠動脈をバルーンで閉塞後解放して作成した雌ブタ心筋梗塞部に1月後に免疫抑制薬の投与とともに、男性ヒト心筋幹細胞移植とbFGF徐放生体吸収シート貼りを併用する。MRIでさらに1月後の心臓機能を解析すると、bFGF徐放生体吸収シートだけでは3-4%の改善であったが、心筋幹細胞移植との併用では12%もの改善が見られている。移植部位では細胞融合を伴う、移植細胞による心筋分化が豊富に見られていた。また、移植細胞はbFGF徐放生体吸収シートの存在により1月後には移植部位において、30%の生着が観察された(シートなしでは5%生着)。本研究は幹細胞単独移植でなく、bFGF徐放生体吸収シートを組み合わせたハイブリッド療法であることが大きな特徴であり、臨床治験に向けたブタ陳旧性心筋梗塞モデルを用いたランダム割り振り前臨床治験は世界でも行われておらず、非常に心機能改善効果の高い心筋再生治療と期待される。
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