研究概要 |
臨床応用の可能性のある細胞として,骨髄間質細胞と脈絡叢上衣(上皮)細胞の移植による脳・脊髄損傷治療法の開発を目指す。 1.骨髄間質細胞:2006年3月23日にC4,5の圧迫骨折患者(35歳,男性)に,自家骨髄間質細胞を腰椎穿刺によって髄液内に注入した。その後,副作用は全くなく,機能的な回復が見られている。この症例は,骨髄間質細胞を髄液経由で注入した世界で第1例目の臨床応用である。次に,受傷後できるだけ早いうちに細胞移植ができるために,骨髄から骨髄単核球をlymphoprep法で分離して,培養せずにそのまま脊髄挫滅損傷のラット髄液内に注入した。空洞の形成は抑制され,歩行運動は改善した。髄液内にはHGFが高濃度に含まれ,またVEGFも含まれていた。TNF-αは減少していた。空洞壁には血管と神経線維が多く見られた。単核球から分泌された栄養因子がこの様な効果を発揮しているものと考えられる。また,培養骨髄間質細胞から骨格筋細胞への分化を高い効率で誘導する方法を見いだした。 2.脈絡叢上衣細胞(上皮細胞):脈絡叢上衣細胞の培養上清に海馬由来ニューロンの生存と突起伸長作用があることを明らかにした。これは骨髄間質細胞についても同様であった。また,成体脈絡叢上衣細胞層に神経幹細胞が含まれていることを示した。同様に,脈絡叢上衣細胞の続きである脳室上衣細胞,特に第3脳室上衣細胞層に神経幹細胞が多く含まれることを成体ラットで示した。 3.その他:脊髄の挫滅損傷によって,脊髄中心管の上衣細胞および実質細胞から多くの細胞が増殖することを示した。この細胞を培養するとneurosphereの形成が見られることから,神経幹細胞の増殖であることが分かった。同時にbFGFの分泌が亢進していた。このように損傷脊髄が修復方向にシフトしているにも拘らず,実質的な脊髄の修復に寄与しないことが問題である。
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