研究概要 |
本研究の目的は,セントラルコマンドによる見込み制御が随意運動時の腹部内臓血流調節に働くかどうかについて検討することである.第1実験ではセントラルコマンドの影響の有無を明らかにする実験モデルについて検討した.具体的には種々の速度と関節可動域からなる肘屈曲動作を用いた「能動運動(セントラルコマンドが有る条件)および受動運動(セントラルコマンドの無い条件)」における基本的循環変数の検討を行った.その結果,肘関節範囲が40-90度,角速度90度/秒の運動が能動運動と受動運動の相違を明確にさせ,かつ実験操作も容易であることが明らかとなった.第2の実験として,30%随意最大筋力(MVC)負荷を維持する静的運動に対する腎動脈血流動態について検討した.その結果,運動開始直後(10秒)から腎動脈血流の低下がみられ,セントラルコマンドおよび筋機械受容器反射のどちらかがこの迅速な応答に働くことが示唆された.第3実験として,30%MVC負荷の動的肘屈曲運動時の上腸間膜動脈血流動態について検討した.その結果,腎動脈血流動態とは異なり,運動開始時に上腸間膜動脈血流に有意な変化はみられなかった.このことより,上腸間膜動脈ではセントラルコマンドまたは筋機械受容器反射による血流調節が及ばないことが示唆された.これらを踏まえて,第4実験として,第1実験で確認した能動運動および受動運動を用いて腎動脈および上腸間膜動脈における運動開始時の血流動態がセントラルコマンドあるいは筋機械受容器反射のどちらに起因するのかについて検討した.その結果,腎動脈と上腸間膜動脈のどちらの血流動態においても,能動運動と受動運動における相違がみられなかった.このことより,腹部内臓動脈の主要動脈である腎動脈および上腸間膜動脈にはセントラルコマンドによる制御が働かないのではないかと推測された.
|