研究概要 |
本研究の目的はチタン酸ストロンチウム中に二次元電子ガスを形成することである.その目的のためにはヘテロ構造を作製し,そのヘテロ界面の電子状態を把握することが本質となる.その目的に関連する,遷移金属酸化物の界面電子状態の研究を以下に報告する. 1.SrTiO_3(100)基板上にLaAlO_3をパルスレーザー堆積法により製膜し,その界面状態をエネルギー損失電子分光法で測定した.SrOで終端された基板では電荷再構成により界面に正孔が生成されるが,それを酸素欠損で補償していることがわかった.これは界面に生じる有限のバンドオフセットを取り除くためであると理解でき,TiO_2で終端された基板を用いた電子型の界面でも同様であった. 2.チタン酸ストロンチウムと他の遷移金属酸化物の界面電子状態を,接合特性を用いてプローブすることを試みた.その結果、磁場で化学ポテンシャルシフトが起こり,接合特性が変調されることを見出した.さらに詳細な解析を行い,その接合特性には電子のトンネルが非常に重要な役割を果たしていることがわかった. 3.内部光電子分光によりSrRuO_3/Nb : SrTiO_3の界面に生じるショットキーバリアの高さを測定した.その結果,この界面はSchottky-Mottモデルでよく記述できることがわかった.この手法は定電圧で測定できるため,他の遷移金属酸化物界面にも一般的に応用できる有力な方法であることがわかった. 4.従来の半導体とのアナロジーから、モット絶縁体を用い量子井戸構造を作製し,そこにおける電子状態を把握することを試みた.材料はバナジウム酸ランタンを用いた.X線光電子分光を用いることでバナジウム酸化物の表面における電荷再構成により,バルクでは存在しないバナジウムの四価が表面1層のみに形成されていることがわかった.また、薄膜の成長条件を制御することでバナジウムの三価と五価の競合相が形成される.透過電子顕微鏡によるEELS測定で,その相界面にも四価のバナジウム酸化物が形成されていることがわかった.
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