研究概要 |
本研究では高圧含水ケイ酸塩メルトの構造解明を目標に、高度な1次元(1D)・2次元(2D) NMR測定、分子軌道法計算、及び系統的なアプローチにより大きな成果を挙げた。具体的な取り組みは以下の通りである。 1.多核種・多次元NMR測定法の開発。複雑な構造の解明には、原子間の繋がり情報を直接与える高度なNMR測定法が最も有効である。本研究では2D ^1H NOESY, 2D ^1H DQ MAS NMR, ^<27>Al, ^<23>Na 3Q MAS NMR, 2D ^1H -^<27>Al HETCOR, ^1H-^<27>Al 3QMAS/HETCOR NMRといった高度な測定に成功した。 2.完全重合アルミノ珪酸塩メルトにおける水の溶解機構を巡る論争の決着。水は一般的SiO_2メルトではSiOHの形成により重合度・粘度を下げるとされるが、Alを含む系については、分光法データの解釈が曖昧なため長年論争が続いた。本研究では上述の手法により、初めて水はAlを含む系においてもSiOH/AlOHを形成し重合度を下げることを証明した(Xue and Kanzaki, 2006)。 3.アルミノ珪酸塩メルトにおける水の溶解機構の組成依存性の解明。我々はこれまでCaO-MgO-SiO_2系含水メルトには、SiOHのほかに、重合度への効果が相反するfree OH((Mg,Ca)OH)の存在も確認し、反響を呼んだ。本研究では高度なNMR測定と分子軌道法計算により、Alを含む系でもfree OHの存在を証明し、その組成依存性を定量化した。また、Al配位数に関する知見も得た。成果の一部はXue and Kanzaki (2007)で公表した。より完全な結果はGeochim.Cosmochim.Actaに投稿予定である。 4.高圧含水鉱物のNMR研究。複数の高圧含水鉱物について同様な手法で調べた。この問題自体も地球深部を理解する上で重要であるが、高圧ケイ酸塩ガラスの構造にも洞察を与える。成果の一部はXue et al.(2006)で公表した。 5.酸素同位体濃縮酸化物合成法の開発。ケイ酸塩中の最も重要な陰イオンである酸素の^<17>O NMR測定のため、CaO、MgO、Al_2O_3、SiO_2の酸素同位体濃縮酸化物の効率的な合成法を開発した(神崎,日本地球惑星科学連合2007年大会予稿集)。 最後に、本研究により、高度なNMR測定法の有用性・必要性が証明され、その更なる開発とマグマ・鉱物への応用の方向性が示された。
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