研究概要 |
トリフルオロメチル基やモノフルオロメチル基を含有する化合物は医薬品や農薬などの分野において興味深い化合物である。しかしながら,これらの官能基をエナンチオ選択的に導入する方法は非常に少ない。そこで我々は,トリフルオロメチル基やモノフルオロメチル基のエナンチオ選択的導入反応を検討した。まず,不斉モノフルオロメチル化反応の開発を検討した。トリフルオロメチル基を導入する方法は知られているものの,モノフルオロメチル基の導入法に関しては全く報告例がなかった。我々はこの課題を克服するため,モノフルオロメチルアニオン等価体としてフルオロビス(フェニルスルホニル)メタンを創出した。まず,ビス(フェニルスルポニル)メタンのナトリウム塩とSelectfluorを反応させることにより,新型モノフルオロメチル化試薬であるフルオロビス(フェニルスルポニル)メタンを合成した。このモノフルオロメチル化試薬を用いて,パラジウム触媒によるアリル位の不斉モノフルオロメチル化を検討した。アリルアセテートに対し,触媒量の不斉パラジウム触媒とモノフルオロメチル化試薬を,炭酸セシウムの存在下,塩化メチレン中で反応させると,対応するモノフルオロ化合物が高収率,高立体選択的に得られた。生成物の脱スルホニル化は容易に行うことができ,モノフルオロメチル基へと誘導が可能である。続いて,ルイス酸触媒を用いたCF3,CF2化反応の開発を検討した。ルイス塩基による触媒的CF3化反応を見出したが,不斉合成への展開する際に,ルイス酸で実施するほうが,利用できる触媒の種類を考慮に入れた場合,汎用性が高い。そこで,通常CF3化反応は,フッ素アニオン種や金属アルコキシドなどの塩基性条件で進行することが知られているが,ルイス酸によるCF3化反応の例は全くない。そこで,様々なルイス酸のスクリーニングをした結果,Cu(OAc)2とdppeの触媒系で,非極性溶媒中においてもCF3化が進行することを見出した。これは,初のルイス酸触媒となるトリフルオロメチル化であり,不斉CF3化反応への適用が期待される。最後に,不斉反応を志向したCF3化反応の探索を行った結果,K-アンモニウム塩を用いた対イオン交換法にて不斉CF3化反応の開発に至った。最高不斉収率は40%を記録した。
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