研究概要 |
フェリ磁性体は,大きさの異なる2種類のスピンが互いに逆向きにそろい,その差し引き分のスピンによって巨視的な磁化が現れるものである.永久磁石として知られている磁性体の多くはフェリ磁性体であるが,遷移金属を含まない有機物質ではまだ発見されておらず,長年のマテリアルチャレンジとされてきた.本研究では,有機酸・有機塩基にスピン量子数の異なる安定ラジカルを導入して,カチオン分子とアニオン分子の間の静電引力を利用したヘテロスピン分子集合系(酸-塩基系二成分純有機フェリ磁性体)を構築するため,そのbuilding blockとしての安定な荷電オリゴラジカルを設計・合成した.S=1のスピンを担うビラジカルとして,ピリジンとアニリンの2,6位または3,5位にニトロキシドラジカルを導入した中性前駆体ラジカルおよびそのカチオン種を合成し,分子内のスピンースピン交換相互作用,基底スピン多重度を磁化率の測定によって調べた.結晶構造に基づく磁化率の解析から,調べたピリジン誘導体はすべて基底三重項であり,分子内の強磁性的交換相互作用はヘテロ原子やイオン電荷の影響をほとんど受けていないことが明らかになった,純有機フェリ磁性体のbuilding blockになり得ることがわかった. 有機酸・有機塩基は,分子間水素結合のプロトンドナー・プロトンアクセプターとして働く置換基を持つ.上記の酸-塩基アプローチとともに,共通のbuilding blockを活用して,酸-塩基間の水素結合を利用した水素結合錯体アプローチも並行して探索した.ピリジン-安息香酸の組み合わせで水素結合錯体を得た.この錯体は,単結晶による異方性磁化率と比熱の測定から,約5Kで反強磁性体に相転移していることが分かった.これは,異種スピン量子数を持つ分子同士を水素結合で連結し,磁気相転移を起こした最初の例である.
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