研究概要 |
本研究では,鉄筋コンクリート構造物の鉄筋腐食による劣化プロセスの潜伏期,すなわち腐食促進物質である塩化物イオンが構造物に飛来しコンクリート中に侵入する過程を精度よく予測する手法の開発を行った。研究段階は大別して,海洋・海岸から構造物への塩分粒子の飛来過程の数値シミュレーション,構造物のコンクリート表面に到達した塩分が表面塩分として定着する過程の室内実験,表面保護材の効果を考慮したかぶりコンクリート中の塩分の拡散移動プロセスの予測,より成る。以下の成果が得られた。 1.構造物の形状,大きさ,周辺地形,気象,海象条件を入力データとして与え,飛来塩分の数値シミュレーションにより,数時間オーダーの時間スケールで海岸近くの構造物の各部位に到達する塩分を詳細に予測することに成功した。 2.飛来塩分の数値シミュレーションにおいて,1週間単位の気象・海象条件を計算条件として入力することで,1年間における1週間単位の飛来塩分の輸送量を計算で再現できることが示された。 3.飛来塩分の現地観測より,構造物の壁面に到達する塩分量は大気中を輸送される塩分量より少ないことを明らかにした。 4.構造物表面に到達した塩分が降雨等による洗い流しを経て,コンクリート表面塩分となるプロセスを実験室において再現する,簡易型風洞実験装置を開発した。 5.表面被覆材の拡散係数はきわめて小さいので,劣化が問題になるとしたら,被覆材自身の経年劣化や損傷による物質遮蔽効果の損失がある場合であると考えた。そこで,ピンホール,剥がれ,浮きに相当する欠陥を人工的に導入した場合の平均拡散係数を実験により求めた。欠陥の程度に応じて,平均拡散係数が大きくなることを明らかにした。
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