研究概要 |
本研究では,まずダイアリーアンケート調査結果を用いて,通勤者が所要時間の不確実性認知を考慮して,通勤の交通行動選択の重要な要因の一つであるセーフティーマージンの規定要因を明らかにするための統計分析結果を示した。得られた分析結果により,通勤者は認知する所要時間の不確実性に基づきセーフティーマージンを設けていることを示された.しかし通勤者は必ずしも実所要時間の不確実性を正確に認知しているわけではないことも明らかになった. そこで,交通行動モデル化における完全合理性の仮定を再考し,より適切な意思決定・提供情報への反応・他者との相互影響のモデル化を目指し,不確実性下での交通行動分析の重要な要素となる認知所要時間が何に影響を受けるのかを明らかにするための多人数同時参加型シミュレーション装置の開発とそれを用いた交通情報提供時の経路選択行動実験を行った. その結果,次の知見を得ることができた.1.認知所要時間代表値は経験する実所要時間平均値,認知所要時間幅は経験する認知所要時間標準偏差に有意に影響を受けて形成されていることが明らかとなった.つまり,ドライバーは経験する実所要時間の有する不確実性を受け入れ,その上で意思決定を行っていることが示唆された.2.情報が提供されない場合,経験する実所要時間が認知に影響を及ぼし,その認知が意思決定に影響を及ぼすプロセスが明らかとなったが,情報が提供された場合には提供された情報が意思決定に影響を及ぼし,その結果得られる到着時刻が認知に影響を及ぼすという情報が提供されない場合とは逆のプロセスを辿る可能性が示唆された.さらに,情報を提供されることにより,認知が正しく行われなくなることが明らかとなった.
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