研究概要 |
銅単結晶およびフェライト系ステンレス鋼で伝ぱした疲労き裂先端近傍の転位構造を走査型電子顕微鏡を用いたElectron Channeling Contrast Imaging(ECCI)法によって観察した.ECC工法とは電子線照射にともなう後方散乱電子放出の結晶方位依存性を利用した技術で,走査型電子顕微鏡を用いて表面近傍に存在する転位を非破壊的に観察することができる.今回のECCI観察では,ベイン構造やPSBなどの転位構造が観察でき,従来のTEMでは困難であった疲労き裂周辺の広域な観察がECCI法を利用することで可能であることが明らかとなった.銅単結晶を用いた研究では,き裂周辺に形成される転位組織は応力軸方位に依存して大きく変化することが明らかになった.[001]応力軸方位では,き裂周辺にはき裂面からの角度に依存してはしご状PSB転位組織やラビリンス構造が形成されていることが確認できた.これらの構造の分布は線形破壊力学にもとづく応力分布から理解することができた.一方,単一すべり方位ではセル構造やPSB組織の形成が観察されたが,その分布は応力分布とは一致しなかった.フェライト系ステンレス鋼の単結晶を用いた実験では,引張軸方位が<112>と<221>で見られたMode III型疲労き裂の近傍ではセル組織が観察された。一方,<110>引張軸で見られたMode II型のき裂では,き裂面の上下にはセル組織はほとんど存在せず,き裂先端では,き裂面と平行なバンド状の転位構造が観察された.EBSD法とECCI法を組み合わせてフェライト系ステンレス鋼多結晶でのき裂伝ぱ挙動を調査した.単一すべりの方位の結晶粒ではき裂周辺にセル組織があまり形成されず,き裂進展は速かった.一方,多重すべり方位ではき裂周辺には多くのセル組織が形成され,き裂伝ぱ速度も遅いことが判明した.ECCI法を利用することで,き裂進展速度と周辺転位組織との関係を明らかにすることができた.
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